『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

「小里方式フローチャート」制作裏話

さて、現在は2024年07月28日の品川へ向かう新幹線の中です。漢方鍼医会の名優の先生が神奈川県でファースト(ラスト)コンサートを開催するということで召集令状、じゃなかった招待状が届いたので出かけている途中です。その前に会場へ早くに入って、wifiと部屋を貸してもらい、伝統鍼灸学会の理事会へオンライン参加もせねばならないということで、朝一番の新幹線になっています。
 ここ最近の記事でやっている、時間制限内で打ち上げねばならない作業となります(掲載時に少しだけ加筆)。今回は第一弾を提出したばかりの「小里方式フローチャート」についての、補足記事となります。

 covid-19による様々な社会情勢の変化が発生する前から、実は漢方鍼医会は方向の定まらない重度の飲酒運転に等しい状態がありました。どこを向いて技術研鑽しようとしているのか、本部へ通っていた最古参の私でさえ訳が分からない状況でした。20周年後の邪気論の臨床で大混乱したものが落ち着ききらない間に時邪の概念が持ち込まれ、それでもここまでは治療法の拡張や、見落とされがちだった古典の活用をしようということで、時間を掛ければ整理できる範囲だったと思います。
 ところが「陰陽調和の手法」なるものは、衛気の補法と営気の補法の使い分けもできていないグループがわずかの上下の操作をいいだしたものですから現実性が全くなく、その根拠が経絡の循環を疑問視したところからといいますから「どんな古典の読み方をしたらそんなことになるのか」と、滋賀漢方鍼医会では一切取り扱わないことにしていました。その後に古典が色々調べられたなら、確かに経脈が発見された時代はすべて求心性に描かれており、やがて遠心性のものが出てきて循環するように変わってきているのですから、アップデート前の古典を今更持ち出しても何にもならないと強く反対を示していました。難経の一難にも経絡は一日に50周すると循環することがはっきり書かれてあるのですから、垂直方向に操作する手法などそれこそ毫鍼の刺激であり、本治法には該当できないとわかりそうなものなのに最後は「イメージがあれば補瀉が連動される」って、そんなのオカルトや!!と、激しく批難したんですけどね。
 ところが本部が「陰陽調和の手法」を追試していくと大反対しているのを無視して進むようになり(案の定ですけどその後に全面撤退)、「陰陽脈診」だとか「季節に応じた治療」だとか次々に臨床テクニックなのか古典で遊んでいるのかと、もうこのあたりで本部へ出かける価値を感じなくなっていました。さらに第三弾テキストの編纂に掛かった辺りから、難経は深く刺鍼して治療をしていた書物なのでていしん治療をするには素問や霊枢のていしんに関するものを拾ってこなければならないとなってきました。
 難経の時代になると素問や霊枢よりも刺鍼しやすい道具が出てきたのは確かでしょうが、だからといって難経の著者たる優れた人物が深い刺鍼に夢中になってしまったなどとは思えません。むしろ直接の瀉法を避けて治療すべきとあるのですから、衛気と営気の操作に重点を置いていたのであり、本部が今さら補瀉の二つに戻そうという意味そのものが全く理解できませんでした。まして脈診で虚実を見極めるということが、あまりに困難で主観的すぎるということから菽法脈診に活路を見いだして漢方鍼医会が創設されてきたのであり、菽法脈診と虚実を見極める脈診の区別も示されないままは納得ができませんでした。
 そして決定打は、実技での検証もしないままでテキスト発行するのは絶対反対ということで、後からこれも全面撤退になったのですけど「補中の瀉」なるどこに書かれてあったのか冴え示されなかった手法を見せてくれと迫ったなら逆上されて、これで本部を退会することを決めたのでした。それでもまだ本部はテキストを発行してしまった手前、素問や霊枢を中心に研究していくといいますから、開いた口がふさがりません。

 それで、ここから「小里方式フローチャート」へ、やっと話がつながってきます。
 それでも漢方鍼医会という研修会が積み上げてきた資産は貴重であり、特に菽法脈診の運用により本治法がたった一本で終えられるという技術体系をもう一度組み直すことはとてもできませんから、地方組織も離脱はせず大枠は維持しようとしています。私個人はもちろんそうですし、滋賀漢方鍼医会全体としても漢方鍼医会というブランドがあるからこそ研修を続けようとするのであり、情報共有できる仲間を求め続けています。
 そこへ本部からの提案でしたが、夏期研が途絶えてしまい全国での交流がないことから何をやっているのかお互いに確かめ合うミーティングを持ちたいという話になりました。これがメルマガで「地方との会議を開いていきます」と相談なしにいきなり書かれていましたから、怒りも含めてすぐ突っ込んでおきましたけどね。試みそのものは賛同できるので、メールアドレスの登録ミスという単純な手違いから滋賀は第二回からのミーティング参加となりました。
 でもでも、最初の相談が「小里方式の中でやっている軽擦動作について名称を付けてはという提案について」ですから、また開いた口がふさがりません。軽擦は軽擦であり、村言葉を次々に作っていたのでは伝統鍼灸学会の他の賛助団体から笑われるだけであり、そのうちに相手にされなくなってしまいます。それよりも身内の研修会だけでなく寄り合い所帯とはいいながら経絡を積極的に治療へ活用している集まりなので、伝統鍼灸学会へ顔を出せば自分たちの立場や位置がよく分かるので、参加しない人がほとんどというのが疑問に以前から強く感じているとも付け加えました。自分を高めたいのであれば、外からはどのように見えているのかを考えることは当然であり、自分たちだけでは気付いていなかったことを他では既にやっていたり逆もあったりで、どうしてもう少しの外へも出ていくことをしないのかと提言もしました。
 そこで、小里方式そのものを時代に合わせてフローチャートとして書き出し、流れを各組織で統一する試みをという話になってきました。ここでまた一つ一つ検証や検討という無限ループに入ってきたので、滋賀漢方鍼医会が基礎ではあるが見本を作成すると自ら手を挙げました。打ち込み中の実技に特化したテキストの打ち込みからすれば一つの項目を追加するなど軽微な作業量であり、この時点でテキストの資料編に組み込んでしまう計算も頭ではまとまっていました。思わぬチャンスが振ってきたというところです。ものすごく嬉しい誤算になりました。

 「小里方式」という名称でさえ形骸化してきていたので、まずは名称の由来から基本形を説明し、どうしてフローチャートとして拡張せねばならなかったのかの説明をまず書きました。これは今までの漢方鍼医会内での資料にはまず出ていなかったことと記憶しているので、しっかり書けてよかったです。
 フローチャートとは、仕事の流れや処理の手順を図式化したものという意味です。ですから「小里方式フローチャート」という名称は捉え方によっては少しおかしいのですけど、「流れ」を規定したものという意味でその場で名付けています。選択肢の処理のやり方は、しっかり組み込みました。
 今回初期バージョンを作成した中で、大きく変えた点の一つは、標治法をフルバージョンで一人が担当するようにと規定したこと。研修会では本治法で時間が押してしまうので、標治法は遠慮の固まりも含めて数本適当にやっておしまいということが、本部では多くありました。滋賀漢方鍼医会では特に私が実技公開した時には、フルバージョンを絶対行っていましたから理解してもらえていると思うのですけど、遠慮の固まりの標治法しか見せてもらえなかったのでは初学者は標治法を「そんなもの」と覚えてしまうので、勇気を出して臨床投入しても効果が見いだせなかったということにつながっていたでしょう。これは東洋はり医学会にお世話になっていた頃からの悪癖であり、親切で融通の利く指導者に当たったなら標治法も丁寧に時間を掛けてポイントが教えてもらえていましたが、適当に背中を撫でておしまいということも多くあったのです。
 もう一つ、診察へはいる前に脈診だけをして「この脈は何を訴えているのか」を観察してみようと項目を追加したこと。脈診のスタイルというものは初めて実技を受けた時の印象が非常に大きく長く影響するのですが、いきな裏証決定のためだけに脈診をしているというのは良質で大量の情報を提供してくれているのに、わざわざ窓口を狭くしているのに等しい行動です。そして脈診を取り入れている研修会では必ず議論が繰り返される脈に何を求めているのかを、いきなり派手にやってみればぶつかっている間に色々なことが分かってくるだろうという期待を込めてのことです。私は助手へ入って一ヶ月目、いきなり「不問診をしてこい」とだけいわれてヒントも何もなく困り果てて、どのみち短時間で貧弱な知識しか蓄積できていないなら全てリセットしてしまおうと開き直ったなら、不問診ができるようになりました。不問診ができる事自体は偶然であり、素質が必要ですから誰もが習得できるわけではありません。逆に習得しようとも考えてもいないのに、いつの間にかできるようになっていたという人もいます。これらの経験も含め、予備知識なしに脈へ触れることがものすごく貴重で大切なことだと信じているので組み込んでみました。どのみち漢方鍼医会も含めて脈診を取り入れている研修会では「脈診に何を求めているのか」が議論の的になるのであり、真正面から取り上げればいいではないですか。

 この後に各組織からどんな反応が戻ってくるかです。色々と規定をしたので音声で実技の様子を配ることにもしていますから、「これはおもしろい」といううことになってくれればいいのですけど。