『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

ビジョンを描く

 昨日に続いて『医道の日本』に掲載されていた「良かれ悪しかれ大量排出時代」の記事から、気になった部分を書いてみます。

 私もこうして開業二十年目にもうすぐ入るわけですが、鍼灸師がその持ち味を存分に発揮できる携帯はやはり独立開業ということになるでしょう。
 「いや、そればかりではないはず」という反論もあるでしょうけど、健康保険が適応されない自由診療鍼灸では鍼灸のみを求めてくる患者さんが集まる場所でなければどうしても力一杯の診療にはならないことが現実でしょう。
 それを踏まえた上で独立開業以外で鍼灸に携わっておられることには何ら文句はありませんが、将来をどのように考えているかが問題と思います。

 というのは、私も本能的にそのように感じていたので今の開業に踏み切ってきたのですけど、開業後からの患者数の伸びがグラフで示されるとまずほとんどの治療室が開業直後には数字を延ばしていても半年から数年で安定飛行へと移り、右肩上がりで業績が伸びるというのは幻想であることを如実に語っていました。
 これは開業したならとりあえず試食という形で地域の人たちが訪れて、もちろん技術力がなければその場で終わりなのですが技術力があっても現状の鍼灸に対する一般的イメージでは「受けたい」と考える割合が絶対的に小さいので、通院できる範囲の人口立がそのまま数字となるからです。

 それで私はといえば、助手を入れてからすぐベッド数も増やしたので途中で大きく数字は伸びていますけど、やはりその後は安定飛行という感じでしょうか。
 この十年間は数パーセントのアップにとどまっていますし、季節的には下回っていることさえあります。

 けれど生意気ですが、現状は予定通りの推移です。
 ベッド数に対して無理のない数字が現状であり、電子カルテを導入したりホームページを拡充させるなど他の作業も増えていますし、そろそろですし、何よりも漢方鍼医会本部での臨床家養成講座の一回目が終わったところで後進育成の体制を整えている段階だからです。

 私の盲学校時代は中途失明と全盲は自宅開業で、学齢の若者は病院勤務というパターンが定着しており、自宅開業というのは暗いイメージがありました。
 昔話や漫画に出てくる専任のような人が痛がっている箇所には手を触れず離れた場所から魔法のように治癒させてしまう技術を鍼灸を目指した時には誰もが夢に描いたでしょうけど、そのような技術を必ず手に入れると堅く心に誓っていたので病院勤務は最初から考えていませんでした。これは親戚に理学療法士がいて、一年生の夏休みに個人的に見学をさせてもらって病院での勤務は患者さんにとっては多く接する中の一人にしかならず主治医とは思ってもらえないことがハッキリしたので、開業をこの時に決意したのでもありました。
 それに自宅開業が暗いという勝手なイメージは、本当に失礼な話ですよね。

 さて長くなってきたので結論へと進めますが、開業はもちろんそうなのですが鍼灸師として人生を送ると決めた日からは、長期構想に基づく信念と実現させていく行動力が何より大切だったと記事を見て感じたのでした。
 記事の中には二十代半ばで開業するだけでなく数人雇っている人がいたのですけど、高校生の時から既に現在のことを頑強に意識して行動してきたとあり、これはまさに私の行動と一致するところなのです。数はそれほど多くなかったかも知れませんが治療室を色々と見学させてもらい、多数のベッドを配置して助手も入れて仕事をすることは強いビジョンとして卒業前からありましたし、本部で指導者となっている姿もビジョンの中に入っていました。

 初めてスポーツ少年団に入りたいといった子供に「お前はオリンピックに出るために練習するのだ」と言い聞かせても無理ですし決めつけは才能そのものをつぶしてしまいますが、中学生になって部活をやろうという時は自己判断なのですから「オリンピックまで出たい」とイメージして取り組むか「体力が付いて友達が出来ればいいや」と思うかでは大違いになってきます。
 自己判断が間違っていた時には速やかに修正することが大切ですし、自己判断が大きく反れていなければ目標に向かってひたすら頑張るのみです。
 ただし、高校野球の甲子園に代表されるように「現時点で頂点に立ちたい」と思うことよりも、長い人生なのですから「最終的に頂点に立つ」というビジョンの方が大切に私は考えています。
 甲子園で活躍してそのままプロ野球でも活躍できる人はほんの一握りであり、むしろ甲子園経験のない人の方がプロ野球では成功している確率がずっと高いからです。鍼灸とは一瞬のビジネスチャンスを狙ったものではないのですから、経験とともに技術向上だけでなく自分がおもしろく感じられるものでなければならないからです。

 もう一度結論を繰り返しますが、開業を含めて鍼灸師として人生を歩むと決めた日からビジョンを描き、頑強な信念に基づく行動力が大切であるということ。そのようでないと病気を治す力などわずか数十年の人生の中で蓄積できるものではないはずです。