忘れてはならぬ「かきくけこ」
どうも一つ話題を出すとそれを使い回してしまう癖が付いてしまったようで、ネタノートで少しずつ治療室の話題は貯めているのですけど今回も開業の時の思い出を書かせてもらいます。
治療室を開業するに当たって、私が考えたことはたった一つでした。
「自分が今まで医療を受けてきて嫌だったと感じたことは90%の人が嫌に感じていただろうし、こうだったらいいなぁと思ったことは70%から80%の人も同じことを考えただろうから、嫌なことは一歳やらずこうだったらよかったのにということだけを実現させる」ことでした。
まず今の医療で最も患者サイドから不満が強いのは、待ち時間の長さでしょう。「病院に行くと一日仕事だから」とは二十年前も今も変化していない悪癖であり、病院としても努力はされているのでしょうが診療科目を統合して不必要な検査を廃止し治療から卒業させていく姿勢にしない限り改善しないでしょう。この点については、前回に書きました。
さらに完全予約制とするのはもちろん、その予約時間から絶対にずれないことを最初から守りました。
おかげさまというのか彦根とは「新しいもの食い」の土地柄であり、開業の広告で最初の週から患者数が二桁を切ることがなかったので一人で仕事を始めたばかりの若造にとってはこちらが診察をして欲しくなるほど身体が疲れたのですけど、それでも時間は絶対に守りました。
自分が待つ方の立場であれば、5分は仕方ないとしても10分になるとイライラしますから、当たり前ですが今でも絶対に守っています。
少し話が反れますけど、研修会で実技をすると長時間診察を続ける人がよくいます。
どうして診察を続けるのかと尋ねると「分からないから」という答えがほとんどなのですが、それであれば短時間でも長時間でも分からないものは分かるはずがありません。むしろ長時間診察することで余計な迷いが生じて、分かっていたはずのものまで分からなくなっていることさえあるでしょう。そうであるなら短時間に集中して自分の守備範囲の診察だけをして、余計な迷いを入れないようにした方がずっと徳ですしそれは患者さんのためでもあります。
最初に出させてもらった研修会で取捨選択の重要性を痛感し、夏休みに治療室見学をさせてもらった宮脇先生の治療室でも脉診をする時間が短いことを逆に驚かれていました。
最終的には指導の先生が面倒を見てくれるのですから自分の診察が合致していた時には自信を持てばいいのですし、間違っていた時には間違えやすい項目として記憶に留めデータベースを構築していけばいいのではないでしょうか。
治療家とは、ある種の楽観主義者であるべきなのかも知れませんね。
予約時間は絶対に守る・治療は卒業していってもらうの他には、色々と患者さんに伝えたいことがあっても話しきれなかったり言葉だけでは記憶に残らないのでパンフレットを大量に自作しました。
当時はまだワープロの画面をルーペで確認できるくらいの視力はあったので、暇があれば打ち込み作業をしていました。実はワープロ専用機の方がレイアウトが柔軟で、この時から下書きなしで原稿を作る癖が付いてしまったのですけどね。
論文の閲覧とダウンロードの説明ページから、実際にご覧頂けます。
そして今回のメインディッシュになるのですが、助手時代に「営業反映の秘訣」というシンポジウムの録音を聞いたことがあります。
これは東洋はり医学会の第九回経絡治療大学技術講座で行われたシンポジウムであり、助手に入ったばかりでまだ仕事にも慣れていなかった私には大きな夢を抱かせてくれました。その中で高知の塩見先生がご自分が行った講義から「かきくけこ」で人間として・治療家としてのなすべきことを話されていたので、何度も聞き返して暗記をしたのです。今でも事務スペースの側ですが、この「かきくけこ」は大きく印刷して掲示してあります。
何も付け加えることはありませんので、これを掲載させてもらって今回は終わりとします。
人間として
か 感謝する人間でなければならない
き 気の付く人間でなければならない
く 苦労を惜しまない人間でなければならない
け 謙虚な人間でなければならない
こ 心の広い人間でなければならない
治療家として
か 感覚を磨かねばならない
き 「気」「気迫」を持たねばならない
く 工夫をしなければならない
け 決断力を持たねばならない
こ 根性を持たねばならない