『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

後期高齢者医療制度が始まって感じたこと

 私の目の病気は先天性緑内障であり、現在でも数ヶ月に一度は定期検査を受けています。自己治療で何度も危機を乗り越えてきた緑内障ではありますが、点眼薬の力を借りてきたことも確かであり眼圧の数値を把握しておくことも大切なことなので、これは続けて行かねばならないことと思っています。

 それで昨日(2008年4月16日)に検査を受けてきたのですが、今まで見たことのない光景にビックリしてしまいました。
 病院の待合室といえばいつも大勢が待っていて、予約がしてあっても大きく時間がずれ込むのが当たり前の光景であり、「三時間待ちの三分診療」などと揶揄されているくらいでした。
 それがどうでしょう!待合室の人数が激減していて、しかも恥ずかしいことですが予約日を間違えていたのにほとんど待ち時間なしで診察が受けられたのです。
 いつもは忙しい中で「気を付けて帰ってください」だけなのに、「心配だから送っていきましょうか」と親切なのか今までが不親切だったのかと、こちらがビックリしてしまいました。けれど視覚障害者でもエスカレーターくらい乗れるのにそれを知らない眼科で働いている人というのは、もっとビックリだなぁ。
 ここまで書けばその先も予想通りで、会計処理もすいすい進みますし病院全体の人数が前回よりぐっと減少しているのです。

 この現象は、間違いなく実施されたばかりの「後期高齢者医療」という制度によるものでしょう。
 「長寿医療制度」から「後期高齢者医療制度」とネーミングが変わったことがまず第一のマイナスポイントですけど、ほとんどのケースで低所得者の保険料は減額になると説明されておきながら一部の都道府県においては逆にアップになるケースが直前になって判明したことや、保険証の未着が大量発生していたこと、それに加えてお役所仕事の調整不充分と知識徹底のための情報提供がほとんどされなかったことが、今や大混乱を招いています。

 確かに収入が年金のみで低額という方々にとっては、しかも年金からの天引きという方法は心に傷を付けてしまうほどの情け容赦のない制度改定に写ったことでしょう。
 それでなくても「大きな病気をしてしまったならどうしよう?」と常日頃から不安に感じられているのでしょうから、大混乱は当たり前です。暫定ガソリン税率が期限切れで下がるかどうか騒いでいた間にこちらも期限が来てしまい、ガソリンが安くなったと若い人たちが喜んでいるものですから余計に腹が立つのも当たり前です。

 しかし、、導入そのものに問題は多々あったとしても制度改定そのものに異論を唱えるマスコミがないというのが、今回の問題の特徴でしょう。
 国家予算が80兆円程度で、そのうち医療費が33兆円を締めています。ここに国債の償還費用が20兆円以上も必要ですから、国家公務員の人件費や地方交付金も含めて国が行える事業は30兆円を下回っている現状を観察すれば、医療費を圧縮させるのが財政再建の第一条件であることは明白です。

 それでどうするかといえば、無料で医療が受けられるという例外をなくしてしまおうというのが正論であり、病気になってからの治療よりも予防の方が大切という姿勢に転換することです。実際に制度改定の時の目標は、この通りです。
 メタボリックシンドローム検査も今月から始まったように、予防が大切と唱えながらも実行されてこなかったものをお金の力も手伝って強制的に実施させようと書けばちょっと書きすぎかもですが、現実はそうだと思います。
 今まで通りに医療を受けることはできるのに、過剰反応ではありますけど病院へ通う人が激減していた事実が何よりの証拠です。

 これは日本国民にとって不幸なことかといえば、私はそうは思いません。
 今までの政治や行政は手厚い保護ということで無料や軽減処置という魔法を振り回してきて、そのツケがあちこちで大きく跳ね返ってきています。行政にお金がなくなったのではなく、魔法が切れてしまっただけのことに気の付く人がどうして少ないのでしょうか?
 「今日はあの人見ませんなぁ」「さぁどこか悪いんと違いまっか」という漫才が昔ありましたけど、少なくとも病気を治そうという時に無料という魔法は逆効果にしか働かないでしょう。

 これは私のことではなく聞いた話なのですけど、戦後から1960年代あたりまでは「金銭にお困りの方はお申し出ください」という張り紙のしてある治療室が多かったとのことです。そして無料で治療を受けている人も、それなりにいたそうです。
 遠慮がちに一ヶ月に一回程度の人もいれば頻繁に来院される人もいたそうですけど、共通して言えたことは病気が治らなかったということらしいです。
 それで話を聞かせてもらった先生は、「患者さんが治るためにはお金を取ってあげなければならない」と語られました。
 この話は開業をする前に聞いていたものですから「そうなんだ」と実感がなかったのですが、開業してからは交通事故などで保険会社からの一括払いが適応されて自分の財布からはお金を出さない患者さんの回復が遅いという印象を確かに持ちました。
 単純に書けば「病気を治さなければならない」という必死さが、人間とはお金を払わないと沸かないのですね。

 それと今日のテレビを見ていて感じたことがありました。
 お医者さんからのコメントとして「病気かも知れないという時の検査ができなくなってしまう」とのことであり、作成書類の煩雑さは今でもギリギリの状態なのに医療崩壊を招くかも知れないとのこと。
 多忙を極めておられることは承知していますけど、それだからこそ病気にならないための予防策の方を充実すべきでしょうし診察技術を磨いて検査を減らすべきではないのかと感じました。
 鍼灸師は検査機機が使用できませんから手で診察する以外はなく、保険もほとんどが扱えない状態の自由診療なのにその治療を求めてくる患者さんがいるのですから、コメントされていたお医者さんはまだ努力できると思うのですけど。

 負担の増えた方々のコメントは分かるのですが、関係ない政治家が感情的に演説をしている姿は滑稽にさえ映ります。
 しかも内容を考えずに廃止を訴えるなど、自らムチをさらしている以外の何者でもありません。

 決して医療を受ける権利を奪ってしまった制度ではなく、予防を意識させる制度なのですから、そして本当に困っている人や難病の人たちへ医療費を回すための制度なのですから、早く安定飛行へ写ってくれるようにと思います。
 それとともに、鍼灸の担う役割が高まることを我々からも努力を重ねなければと、改めて思いました。