『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

救急車を出動要請

 前回は「コンビニ受診」の話を書いたのですけど、救急車を呼ぶことに対して以前からモラル低下が報道されていますよね。
 雨が降ったからタクシー代わりに呼んだなどは朝飯前で、ペットが泣き叫んでいたからとか下痢をしたから程度で呼ばれていたのでは消防署もたまったものではなく、救急車の出動回数は高齢化社会を遥かに凌ぐ勢いで増加しているため、平均の到着時刻もそれだけ遅くなっているとのことです。
 これも本当に必要な人へ必要な医療を迅速に届けることを困難にしている要因であり、ペナルティー制度を含めて救急医療を要請できる条件を満たしているのか審査が必要な時代になってしまうかも知れません。

 素人さんに「これは救急医療が必要な段階か」などと問いかけることはナンセンスと分かっているのですけど、それでも議論が必要になってきているのは理性が低下しているとしか評価できません。
 「救急車を呼べば近所も騒ぎになって恥ずかしいこと」とは、もはや考えられない過去の常識なのでしょうか?

 それで『にき鍼灸院』では、忘れもしませんが二階も救急車を呼んだことがあります。鍼灸院で救急車を呼ぶのですから恥ずかしいことと院長は思いつつも、呼ばなければならない時には呼ぶ必要がありました。
 一回目は末期の大腸癌患者で、最初は体調に見合わないので拒否していたのですが「どうしても代弁を通すような処置がして欲しい」と懇願されるので根負けをして下腹部へ鍼をしたなら劇症の腹痛となり、どうにも鍼灸の力のみでは止められそうにないので出動を要請したのです。
 この患者さんはその後に救急処置からその日のうちに転院となり、明くる日にお見舞いに出かけたのですけどその次の日に飛び降り自殺をされてしまったという苦い思い出も残っています。

 それでもう一回の要請なのですが、これは何とも表現しにくい「コンビニ受診」の走りのような要請をしてしまったことがあります。

 患者さんは何度も来院されている不良おばちゃんで、土曜日の夕方近くだったのですけど「テニスをしていてひどい捻挫をしたから緊急で治療して欲しい」との電話でした。
 友人の自動車で送迎してもらえるとのことでしたからすぐ来院するように伝えて、抱えられながらベッドへ上がった患者に触ってビックリ。
 脉診をする前に患部を確認しておこうと足首付近を把握すると悲鳴が上がり、こちらも悲鳴を上げそうな状況になりました。
 なんとアキレス腱が断裂寸前なのです。ほとんど糸くらいしかつながっていないのです。
 急いで脉診をすると跳ねているだけでなく、これも糸くらいでつながっているような脉で脉状までは覚えていません。

 それで付き添いの友人に状況を尋ねると、「バキッという大きな音がしてそのまま倒れた」とのことであり、本人も足をひねったりはしていないのだが全く歩けなくなってしまったといいます。
 「どうして捻挫などといって電話を掛けてきた?」と尋ねると、「ここなら何とかしてくれるだろうと思ったので軽い病名にしてみた」とのことで、やっぱり不良おばちゃんです。

 明らかにアキレス腱断裂であり、しかも手術で接合してもらわないとどうにもならない状態ですから治療は何もせず病院へ行くように伝えました。
 そうしたなら「救急車を呼んで欲しい」とのことなのです。

 「友人の自家用車で来院できたのだから、同じ方法で病院へ行くべきだ」と反論したのですけど、「ここへ来たなら何とかしてもらえると相当につらいのを我慢して乗ってきたのだがもう痛みには耐えられないのでストレッチャーで運んで欲しい」といわれたなら、これは強制することが出来ませんよね。

 それで自ら119へ電話し、何も治療はしていないことと患者さんが痛がっているので自家用車での移動はもう我慢できないと伝えたなら親切に対応してもらえたのですけど、どうしてもサイレンだけは規則なので止められないとのこと。
 それで友人に通りまで出てもらって、救急車が確認できたならすぐサイレンを止めてもらえるように頼んで電話を切ったのでありました。

 無事に救急車は到着し隊員の方々も友好的に対処してもらえましたけど、肝心の患者さんが微笑を浮かべています。
 「救急車で運んでもらった方が早く診察してもらえるので、よかった」との言葉に「しまった!」と思わず心の中で叫んだことはいうまでもありません。
 今でいう「コンビニ受診」の片棒を担いでしまったことに、この時点でやっと気付いたのでありました。

 自宅からすぐ近くの病院へ搬送され、ご主人も駆けつけてくれて手術の段取りはすぐ整い、お礼の電話も掛かってきました。
 でも、当院の受付アルバイトを娘がしてくれていた時期であり、かなり長くこの話題は引きずることになるのでありました。