『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

駅のホームから転落(その2)

患部が紫色になっている写真

 前回の『駅のホームから転落(その1)』を掲載後、何通ものお見舞いをいただきありがとうございました。
 身体が動かせるのを数値で示せば、普段を100とするなら当日は40以下で月曜日が50程度、今日の火曜日が65くらいで明日の水曜日は80まで回復すると予想しているのですけど、これは”漢方はり治療”の優秀性があるからです。
 駅ホームの高さが正確にはどれくらいあるのか分かりませんけど、今思い出して1.5mくらいの高さを転落ししかも線路の真上に打ち付けられたのですから体重のことも考えるととんでもない打撲なのに、普通の会社員ならしばらく寝込んでいただろうものを仕事を休むことなくたった三日間での回復、これは針灸治療のおかげそのものです。
 実際にどれくらいのダメージがあったのか、少々グロテスクな写真になってしまいましたが月曜日の夜に撮影した内出血の様子もご覧ください。魚拓ならぬ人拓ですね。

 外傷からの病状であったとしても病理考察に基づく証決定からの治療、ここに回復の要因があります。
 本題へ進む前にまたおまけ話になるのですけど、この秋からの新しい助手が研修会へ向かう駅の階段で転倒してしまい両方の足首を捻挫してしまったので出席できないという電話をまだ溝掃除をしている時間帯に掛けてきました。そうです、同じ日の私が転落するより前の出来事です。
 その災いが伝染してきたとか呪いが襲ってきたとかは思いませんけど、ホームを歩いている時に何となくそのことも考えていたかも知れません。
 「どうして両足とも捻挫をするようなお馬鹿な転げ方をするんだ」と考えていたなら、命の危険にさらされるような転げ方を師匠の方がしてしまったのでありました。お馬鹿な師弟です。
 携帯電話が胸ポケットに入っていたというのは、連絡が入った時に素早く出られるようにと配慮していたからなのですけど、よくぞホームまで一緒にはい上がってきたと感心するばかりです。
 ちなみに弟子の方ですが、骨折は免れていたものの外傷がひどく、三針縫ったとのことです。

 さて治療の話へと戻します。まずは予告どおり瀉法鍼という道具からです。
 これは第一期の臨床家養成講座の中でも披露したことがある道具なのですけど、皮内鍼の赤羽先生が、皮内鍼の効果を高めるために反対側の兪穴へ打ち込むために考案した道具と聞いています。
 一寸程度の鍼と鍼管を思い浮かべて頂き、打ち込む鍼なのですから新館内の穴の大きさと同等の太さがあってすっぽり装着した時にわずかだけ丸めてある先端が飛び出すようになっています。この太さの突起を叩くのですから、補瀉という概念でいえば確かに瀉法となるでしょう。
 私が助手時代にこの道具を紹介して頂いたのですけど、当時はそのまま皮内鍼の反対側へ打ち込む程度で頻繁には利用していませんでした(確かに脉状は顕著に改善しました)。ところが自分で開業してから突き指をしたという子供がやってきて、お灸をしたいのですけど誰も助っ人がいませんから代用で用いてみたところ瞬間的に回復してしまったのです。そこで考えたのは、皮内鍼は置鍼なので気を集める道具なので瀉法鍼は血がより直接的に動かせる道具ではないかということであり、都合よく突き指の患者が連続したので有頂天になるほど回復しますからその自信が深まっていったのです。
 使い方を工夫しているうちにローラー鍼と併用する方がより効果的であることが判明し、瀉法鍼は血をどんと押し出すイメージであり気も流してやらなければならないので、ローラー鍼を併用するのが効率的となるのでしょう。
 臨床の中で使い方はさらに広がり、かなりの骨折であったとしてもその部分へ施術するなら速やかに回復させることもできています。

 それで打撲部分へ行った施術ですが、打撲によりお血が当然発生しますので打撲部分と正常部分の境に沿って瀉法鍼を施し、後ほどローラー鍼も施しました。これで前回報告したように、仰臥位になることができています。
 瀉法鍼は救急法もしくは補助療法としての道具ですから、証に左右されることなく用いて構わないと考えています。ただし、お血など血が停滞している病理が認められなければなりません。
 瀉法鍼については説明ということで、それほど議論にはならないでしょう。


 次ですが、問題は、四大病型という言葉や概念についてです。

 写真でも明白なように患部には大量のお血が発生していますし、熱もあれば自発痛もひどく陰実証として考慮する材料は充分すぎるほどです。しかし、冷や汗が大量に流れたり月曜日になって左肘の応急処置をしてもらった包帯を外したところ骨膜に傷が付いていたようで微熱が出たり下がったりを一日中繰り返して全身がだるいというのは、これは陽虚証の症状です。
 この矛盾をどのように考えればよいのでしょうか。

 まず池田政一先生も著書の中で示されているように、陰実証には急性熱病や慢性など様々なタイプがあり自発痛以外は特徴的な症状がなく、お血の状態(お血の熱量)によって症状は変幻自在と読み取れます。
 臨床室での実感として、自発痛は陰実証と分類してまず間違いなさそうですし好成績を得ています。
 ただし、西洋医学自律神経失調症のように分類しにくい不定愁訴を十把一絡げに陰実証として分類したのではこれは安直すぎますし、疲労困憊の時期にそのような臨床をしてしまったことがあるのですけど成績はやはりよくありませんでした。陰実証と表現してもいいでしょうし肝実と表現してもいいでしょうが、それが形成された病理考察ができなければなりません。

 では、今回のケースでは特に直後の治療では大量のお血が発生していたので脾虚肝実証として処置して成功しているのに、どうして普段は陽虚証として分類している症状が目に付くのでしょうか。ここからは完全な独断ですから漢方鍼医会の公式見解とは違いますので分けて読んでください。
 素問・調経論にいう陽盛外熱・陽虚外寒・陰虚内熱・陰盛内寒は身体の寒熱状態を示したものであり、これらの把握は標治法に役立つものではないでしょうか。そして難経での陽実・陽虚・陰虚・陰実は病理を示したものであり、証決定に役立つものではないでしょうか。
 つまりかなりの部分が重なっているのでいつの間にか混同してしまったもので、陰主陽従などとおなじく四大病型という言葉がいつの間にか作られて意味をハッキリさせない間に一人歩きしてしまっているのではないでしょうか。
 ただ「四大病型」という言葉は響きがいいですし病態把握にも便利なので、病理の四大病型と標治法へ用いる四大病型として区別しながら使い続ければと考えています。

 それで私の治療に当てはめると、証としては外傷により発生した大量のお血で自発痛があり全身循環も阻害されていることから陰実としての脾虚肝実証、標治法としては陽気が吹き飛んでしまったので陽虚を改善させる処置という組み合わせになります。
 月曜日も証決定は同様ですが、標治法としては骨折寸前だったことから新たな患部へ陽気が集中しており新たな陽気を急いで精算しているという意味も含めて全身の陽気バランスを崩していたという意味で陽虚を補う処置としています。
 火曜日にはメールを通じてのアドバイスで腰へ知熱灸を加えると、深部に暖かみを感じてとても気持ちよかったですね。

 患部には熱がこもっているのでお風呂へは入らないなど当然の養生法は行っていますけど、湿布などは一切していません。帰宅したなら幼い子供がいますから、抱き上げたりもしていますし身の回りのことも全てしています。転落当日は無理矢理眠ることも視野に入れていましたが、落ち込まないことも含めて約束していたのでのみにも出かけています。
 ですから冒頭にも書きましたが、これだけ順調に回復できているのは鍼灸治療によるもの以外何もありません。しかも、病理考察に基づく証決定があるからこそです。
 まとまりがなく漢方鍼医会内部への文章に今回はなってしまいましたが、痛みが解消して落ち着いたなら改めて考察し治したいと思います。

 それと最後に忘れてはならないことですが、心配をしてくれる家族がいて「家族のために」と思う気持ちが根底にあることが大切なことだと改めて感じています。
 患者さんも含めると一人の身体ではないのですから、気を引き締めて行動していきます。