『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

自作パンフレットの話(その2)、感熱紙と唇の触覚

自作パンフレットをそれまでのワープロ専用機でのみプリントアウトしていたものが、パソコンでも製作できるノウハウを今回蓄積できたので嬉しくなってブログに書き始めたなら、色々と思い出されることが多くてキーボードが止まらなくなってしまいシリーズ第二弾です。
今回はワープロ専用機で最も悩まされたプリントアウトのことであり、人間の触覚の話につながってきます。

ワープロ専用機が一時代を築く大ヒット商品になった要因なのですけど、それはプリンタが必ず搭載されていたことではなかったかと私は思うのです。
現代は年賀状でもインクジェット対応が一番売れるというくらいにカラーインクジェットプリンタが普及していますけど、いくら小型になっているといっても大きな箱であり持ち運ぶことなどとてもできない代物です。これに対してワープロ専用機はテレビモニタを搭載しているとそれなりの大きさにはなりましたけど、それでも部屋から部屋への移動は十分でしたし、液晶のラップトップタイプであれば今のノートパソコンより一回り大きいだけなのにプリンタまで搭載していたのです。
これは熱転写プリンタを採用していたので可能になったことであり、小型ながら何にでも印刷できて品質もかなりのものという優れものです。

熱転写プリンタとは文字のごとく、高熱になっているプリンタヘッドが押し出されてきてインクリボンのインクを溶かして紙へ印字されるという仕組みなので、プリンタへ巻き込める分厚さのものであれば布やプラスチックなどなんでも印字できるのです。今でもデジカメの家庭用専用プリンタとして販売されているカラーの昇華型プリンタは、仕組みとしては熱転写プリンタの発展型なのです。
印字精度はピンの数によって左右され、正方形の枠でフォントがデザインされていたのでプリンタヘッドのドット数がプリンタの印字品質とイコールに解釈できていました。プリンタに搭載されているヘッド数は物理的なものなのでそれほど気にする必要はないのですけど、多分ですが、標準の10.5ポイント文字を印字することを基準に、比較していたものと思われます。

企業などが文書作成のために購入し始めた初期モデルでは16ドットというプリンタヘッドの構成でしたから、正方形内に16*16=256個の点が配置できるのでこの制限内で日本語の文字パターンをデザインさせていたのでした。しかし、このレベルではさすがにギザギザの目立つ文字しか印字することができず明朝体とゴシック体など区別のない時代でした。

個人レベルでも充分に所有できる世代になるとプリンタヘッドも24ドットとなり、576個の配置からビットマップイメージが構成できるので複雑な文字もデザインできるようになって、登場はかなり先のことになると想像されていた第二水準漢字がフロッピーベースの提供ながらあっという間に普及してきたのでありました。このタイミングで、初めてのワープロ専用機を買ってもらったことを前回に書いています。
この24ドット印字であれば本文サイズの文字であれば充分に見栄えがしますし、JIS第二水準漢字が鍼灸の世界にとってもかなりの文字が含まれることになったので資料作成が飛躍的に容易となったのでありました。
それでも印刷と比べればかなり品質が劣るということで、次の世代は48ドットの時代となり2304個のビットマップイメージは数種類のフォントを切り替えられる機種まで登場させてきたのでした。そして買い換えたワープロ専用機のフォントデータを打ち込んでいたという女性が、患者として来院していたという話も前回に書いています。
住所録管理機能や表計算とかスキャナから写真を読み込んだり、一部にはファックス機能やパソコン通信に対応したものなど高機能化が進み、この頃がワープロ専用機の絶頂だったでしょう。

ところで熱転写プリンタの難点といえば、インクリボンが高いことでした。リボンというくらいですから原則的には一度しか使用できず、下書き用としてリボンカセットを手で巻き戻したり往復で使えるタイプというのもありましたけど、清書の時には新しいインクリボンを出してきて緊張しながらプリントアウトを待ったものでした(笑)。

このあまり心臓にはよくない状況がなんとかできないものかと考えていた時、ワープロの専門雑誌に感熱紙を使うという記事が紹介されていたので飛びついてみました。A4やB4のサイズの用紙には熱を加えると黒く発色する薬品が塗布されているというもので、実はファックス用紙として広く流通しているものをワープロ専用機で扱いやすいようにサイズカットしたものでした。
それでインクリボンを外した状態でプリントアウトさせてみると・・・・、今までの節約に節約を重ねていた苦労は何だったのだろうというくらい見事に綺麗な文章が打ち出されてきたのでありました。

感熱紙は放置しておくと薬品が室温に反応してすぐ黒くなってしまうという欠点は持っていましたけど、これは実際に配付する資料をコピー機で複製することにより問題解決です。それよりも下書きで読みにくいものに目をこすりつける必要はなくなりましたし、拡大文字を実際に何度でも印刷して確認できるようになりコストパフォーマンスの劇的な向上に喜びが止まらなかったものでした。

それで先程も「熱転写プリンタとは文字のごとく、高熱になっているプリンタヘッドが押し出されてきてインクリボンのインクを溶かして紙へ印字されるという仕組み」と書きましたし、感熱紙は熱を加えたなら発色するということなのでこんなに小さなプリンタが実は熱を出す構造になっているのだろうかとにわかには信じられなかったので、一通り感動が治まったところで師匠が手持ちの導線をライターで温めて感熱紙へ押しつけたなら・・・。
なんとなんと、当たり前のことではありましたが見事に発色してきたのです。つまり、あの小さなヘッドだけが高熱になって後ろから押し出されてくる構造とは、本当のことだったと、二人で二回目の感動をしていたのでありました。

さてここから鍼灸との関わりになるのですけど、感熱紙の扱いにも慣れてくるとどちらが表で裏だったか分からない時が出てきました。指で探るとほとんどは分かるのですけど、まだ新品だと区別がハッキリしませんでした。

そこで思い出したのが、唇の感覚の鋭さです。自己で両腕を失った先生が大阪市立盲学校に昔勤務されていたのですけど、全盲なのに腕がありませんから点字を触れることができません。それでどのようにされていたかというと、唇で点字を触読されるというのです。
実は人間の触覚の中で最も鋭いのは唇だそうです。考えてみれば毎日食べ物を取り入れる入り口なのですから、美味しいものを味わう感覚と同時に有害なものを察知する能力があるはずですし、五臓の色体表では唇は脾の主りで内臓がめくれ上がったものとされていますから触覚が鋭くて当たり前なのです。
これも実際に確かめてみようということで、唇で感熱紙を触ってみると一発で明らかに表裏の違いが分かりました。

指先の感覚は訓練次第で相当に鋭くなるものなのですが、まずは訓練をしなければなりません。私は点字と点字プリンタのレンタルでも書いたように、高校生から点字に切り替えたことで既に触覚訓練ができていましたから最初に脉診の実技を受けた時から変化そのものは触知できたのですけど、晴眼者であればまず脉の変化を触知することはできないでしょう。視覚障害者には優れた鍼灸師が多いというのは、触覚の鋭さであり余計な情報が目から飛び込んでこないためだといわれます。
それで晴眼者が脉診の実技に取り組んでもなかなか変化が触知できないため、残念ながら脱落してしまう人もあります。助手に入ってきた人たちでさえ触覚がしっかり育つには半年は必要だというのが経験です。
それで触覚が思うように伸びず嫌になっている頃、感熱紙を指先だけでなく唇で触らせることにより「まだまだ訓練の途中である」ということを今でも教えています。