『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

ていしんを試作中(その4)、鍼とは「気のアンテナ」

ていしん試作品3

 オリジナルのていしん製作レポート第四弾ですが、毎回冒頭に書いていることですけど新しいていしんや新しい道具が手に入ったから治療能力が向上するわけでなくその治療家の手に変化が現れるだけの話なので、治療への取り組み姿勢は緩めることなく患者さんからの声も心志に受け止めなければなりません。しかし、治療家の手となる道具の吟味は大切であり、手がなければ何も動かすことはできないのですからオリジナルの道具を開発することも当然ながら大切な治療家の姿勢といえるでしょう。そのようであれば、手の届く範囲が拡大する可能性はあります。
 ということで、今回は予告通り治療家の手となる鍼の握りについて言及していきたいと思います。

 本題へ進む前にですが、第三弾の試作品が届きましたのでその感想です。今回は先端部分を切り落としの状態から綺麗に面取りしてもらったことが改良点なのですけど、予想通りに刺激の感覚が鋭すぎるものからまろやかとなり、「深く入りすぎるのでは?」と指摘されていた当たりの強すぎる点はクリアできたと感じています。
 両平面タイプのものは先端を1mmから更に細く0.8mmとしてもらったのですけど、これは予想通り強度的な問題が発生してきそうですし指の間の感覚としてもそれほど問題にならないので、先端の太さは1mmで完全に決定です。
 問題は先端の形状なのですけど、今回は面取りでしたが第四弾では完全な丸みのものを発注しています。龍頭の先端を丸くすることで術者が時には受けてしまっていた邪気を逃がすことが出来るようになったことは第二弾で確定できたのですけど、出来れば実際に接触する部分はまろやかであって欲しいので龍頭と先端の太さの違いで邪気がながせられるのかは試作品で確かめるしかないのです。
 第四弾の試作品で想定していたテストは終了しますから、想定外の効果や副作用がなければこれで仕様が決定するのでオリジナルていしんが完成ということになります。

 さてここからが本題となるのですが、写真はていしんを握っているところです。
 冒頭で「治療家の手となる道具」という表現をしましたけど、鍼とは一体なんぞやという地点まで遡りましょう。
 私が何度も引用しているフレーズなのですけど、農耕を始める前は狩猟生活であり山野を駆けめぐっているうちに毒蛇に噛まれたり毒草を触ったなどで苦しむ隣人に対して放血が行われるようになり、治療を施す側が不幸にして毒を飲み込まないように動物の角をストローのように加工して吸角療法が誕生したことは想像に難くないことであり、患部に手を触れられない時に遠隔部を揉んでいたなら偶然に経穴が発見されて、その積み重ねが経絡の発見と成立につながったことも想像に難くないところでしょう。
 ですから鍼灸というものは経絡をどのように効果的に操作できるかのために考え出された道具であり、鍼灸というものが先にあって経絡や経穴の概念があとから考え出されたものではないのです。

 それでユニークな話を聞いたことがあるのですけど、武術の達人とは攻撃目標を的確に捉えているものですがこれが経穴の位置と合致するというのです。経穴そのものが身体の重要部位には必ず存在しているのでそれだけなら「なーるほど」だけなのですが、武術とは攻撃だけでなく相手の邪気を受けないような防御もとても大切だというのです。経穴とは正気だけでなく邪気も出入りしている場所であり、劣勢になれば邪気を相手に襲わせるという技もあるとかでこの防御も必要になるそうです。
 武術の達人は鍛錬によって邪気を受けないようにするわけですが、武術よりも治療が目的の場合には相手の邪気を受けないために鍼を用いるようになったという点がユニークに感じたのです。
 この話を聞いたのは助手をしていた時代だったのですけど、当時はもちろん毫鍼のみを用いていたのですが、龍頭と鍼体の太さの違いについてそれまでは「刺鍼をするための構造」とだけ理解していたのですけど、「気の流れる方向を制御するための意味もあるのではないだろうか」と意識するようになったのです。

 鍼のことを「気のアンテナ」とよく表現されていますけど、電波を扱うアンテナは送受信ともに出来るようになっているものです。しかし、中学から高校に掛けてアマチュア無線も少しかじっていたので知っているのですが、送信や受信に特化した構造のものも作ることが出来るそうです。
 トランシーバーという言葉は、トランスミッタ(送信機)とレシーバー(受信機)を合成した単語であり、本来は別々の機械を切り替えながら一台でまとめて使えるようにしたなら便利ということで発展してきたものですから、どちらかの機能に特化した製品も存在するわけです。iPodの音をカーオーディオで聞くためにFMラジオへ飛ばしているのは、トランスミッタであり送信の機能しか持っていません。逆にテレビは受信に特化した製品だったのですけど、最近はインターネットを通じて双方向放送も開始されています。
 それで「気のアンテナ」である鍼は、術者から患者へ気を送ることに特化した構造であり、患者からの邪気を受けないことも視野に入っていたのでしょう。

 では、「気のアンテナ」へ気を効率的に伝えるためには鍼をどのように持てばよいのでしょうか?
 気を伝えることが目的なのですから、指先と鍼先が一致していることが第一条件となり写真のように示指を真っ直ぐに伸ばしておくことです。
 かつて井上恵理先生が鍼柄を二部長くした長柄鍼というものを考案されたのですけど、これは鍼の扱いをより容易に的確にするために考案されたと自ら語っておられたとのことであり、私も学生時代に見学させてもらっていた鍼灸院で長柄鍼を分けてもらって初めて手にした時に「こんな素晴らしい道具もあったのか」と感動したことを、今でもハッキリ覚えています。示指がしっかり伸びるのがとても気持ちよく、この時からずっと本治法に用いた毫鍼は長柄鍼でした。

 そして今回のオリジナルていしんの狙い目は龍頭に平面が付けてあることであり、どうしてそのようなことを考え始めたかについては次回に書きたいと思います。