『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

第16回漢方鍼医会夏季学術研修会を終えて

 昨年は滋賀漢方鍼医会主催による第15回漢方鍼医会夏季学術研修会に没頭していたわけですが、そしてこのブログでも第15回夏期学術研修会を無事に終えられてからその報告記事を連続で投稿してあるのですが、気が付けば第16回夏期研東京大会が終了しました。
 第14回から引き継いだ時には「一年くらいあっという間だからな」と念を押されたのですけど、引き継いでからの一年よりも引き渡してからの一年の方が速く感じたのでありました。

 今年はいつもの八月ではなく施設利用の関係もあって七月と一ヶ月間早くなったことから事務作業がさらに煩雑となり、しかも本部例会と同じ会場ということで本部参加者の反応が今ひとつであることと学生がまだ夏休みに入っていないという悪条件から参加者数の減少は予想の範囲でした。しかし、予想を上回る申し込みの遅さに実行委員会は本当に肝を冷やしたとのことです。その分だけ点訳作業を担当した私にも作業がギリギリの状態でなければ回ってこないという制約があり、また要録のデータ不備からやり直し作業も入って昨年よりも深夜の作業が多かったように思います。三人目の子供が同じ七月に出産というスケジュールにもぶつかって二回目の講師合宿に参加できないかもという場面さえありました。
 それから実行委員会だけでなく漢方鍼医会全体としての影響も大きかったのですが、実技全般を担当するはずだった先生が突然の交番を宣言してしまい研修部の実技の調整がこれもギリギリまで行われたのでありました。しかし、この事件は結束力を高めて結果的には人数も合格点まで集められた要因になったかも知れません。

 さて、今年も実技講師と実技シンポジウムの司会者として参加した感想です。
 まず今年も普通部の実技を担当させてもらったのですけど、普通部に関しては昨年のプログラムのコピーで実施されました。講師陣もほぼ同じ顔ぶれであり、その点からも一年間の成果を隠し球にしていたバージョンアップへ反映できたと思います。まず菽法脉診の高さの決め方(指の重さの操作)に関しては、繰り返しの修練が必要であり講師が同じであったことはより精密な操作方法を伝授することにつながったでしょう。事前に地方組織でリハーサルされていましたから、かなりできる研修生が多かったことにビックリしました。逆に本部のみ所属の研修生は、差がハッキリ出てしまいました。
 それから腹部を用いての臨床的な衛気・営気の修練ですが、昨年に私が押し込んだ形で取り入れてもらったものですけどこれも講師陣が同じであったことから伝えるレベルが上がっていたという実感です。正直なところ、臨床室でも常にこの方法を取り入れて事故修練されている先生とそうでない先生には、差を感じましたけどね。
 そして私が最も驚かされたのは、証決定の前には必ず軽擦をして確認というのか検証作業が徹底されるようになったことです。わずか数年前までは直接経穴を触ることが当然のごとくになっていたので技術低下を懸念していたのですが、時には選経のみまず確定させてから選穴へというステップも踏まれるようになって話がガッチリ噛み合うようになったと思います。取穴技術についてはまだまだ荒削りであり、知識不足の目立つ人も多いので二十周年の狙い目はここではないかと個人的にはターゲットを既にロックオンしています。

 突然に代打を言い渡された実技シンポジウムの司会ですが、昨年に点字プリンタのレンタルまでしたのに予診表が点字では配布できず、討論をパソコン速記で投影するという試みもこけてしまっていたのでリペンジできることから即座にOKしたのですけど、大変な作業になってしまいました。
 まず抄録の執筆期限がほとんどなかったので、五月に一回だけ司会者同士での打ち合わせをして、しかもシンポジストの抄録は今回はなかったということからこれらもカミしての執筆はかなり悩みました。実行委員長の負担軽減のために打ち合わせの日程調整などもこちら側で全て行ったものですから、連絡調整にも手間が掛かりました。
 次に一番リペンジしたかった点字資料の配付なのですけど、中野から高田馬場までは地下鉄一本で往復できることから日本点字図書館を依頼先に想定していたのですけど、月曜日が休刊日という悪夢。そこで中野区の福祉事務所に掛け合ったところ中野区役所から返事はあったものの、「役所内での対応は難しい」とお役人さんの答弁。中野区役所は中野サンプラザの横にあって点字プリンターも設置されているというのに、それで対応できんとはなんちゅうこっちゃ。けれど中野区社会福祉協議会のボランティアセンターが何とかしてくれるという話が明くる日に舞い込んで、それも東京漢方鍼医会が以前に利用していた施設であり中野サンプラザから至近距離というラッキー。メールでの入稿もOKということで、これは当日も好評でした。
 ところが当日の、しかもみんなが会場入りしてから「ビデオカメラのコードがないのでプロジェクター投影ができないためプログラム変更します」のアナウンスには、正直頭の中が真っ白になりました。何せシンポジストだけでなく司会者にも相談なく、突然のプログラム変更です。「昼食時にお互いに疑問や感想を話しながら四時限目の総合治療へつなげていって欲しい」と結論するつもりが、総合治療が終了した後の昼食後で眠たい時間帯に移動ですよ。シンポジストもさぞや大変だったでしょうが、落としどころがなくなってしまった司会にとっても綱渡りでした。まぁ福島会長にまとめてもらえたので、ラッキーでした。
 それと三回目の実技シンポジウムだったのですが、一回目はシンポジストであり二回目は実行委員長として全体のコントローラーであり、今回は司会者という全てに関わってきた立場としてかなりこなれてきた印象ではありますけど、運営の難しさはまだまだこれからですね。一回目ではシンポジストがそれぞれの立場で実技を進めてしまい客観性に乏しく、二回目はチェッカーを付けたのですけど一緒になって証決定をしてしまうかシンポジストに押し切られてしまったかであり、今回は中立の立場で司会者がチェックしたのですけど奨励もできなければ気に入らなくても初心者を惑わさないように結果にけちを付けることもできず、まだ改善の余地がありますね。

 今回の夏期研で特徴的だったことは、陽経の扱いであり陽経から治療を始めるケースが確かに存在することを全体で確認できたことでしょう。陽経から治療を始めると聞けば経絡治療の王道を大きく外れているようにも思えますけど、まず一番メジャーなのが小児鍼であり最後に陰経への本治法をすることで持続力を増大させていますから「陰主陽従」が実践されています。それから井穴刺絡を行う時には陽経を用いることが圧倒的に多く、脉状が大きく変化し全身も大きく変化することを日常的に体験しています。救急法ということで背部から治療を始めることもありますし、こだわりの問題だと思います。ただし「そういうケースもある」ということで、今までの陰経から手を入れるように考えてきたことが間違いだったのではなく陰経のみにこだわる必要はないということであって、圧倒的に陰経から手を入れることの方が多いはずです。
 そして陽経から治療を始めるケースの指標として陽虚証があると打ち出されたのですけど、これこそ以前から滋賀が提唱してきた四大病型をまず消去法で絞り込むやり方が重視されることになってくると、心の中で拍手していました。病理考察を進める中で消去法であっさり陽虚証や陰虚証とするのには抵抗があるといわれ続けてきたのですけど、まず四大病型の全体像をつかむことが重要であるとなってきますからどのような方法を用いるかといえば消去法による絞り込みでしょう。そうなれば陰実証の存在価値がますます高くなり、七十五難型の治療に関しても価値がまた高まると思われます。

 言葉の端々に「滋賀大会が・・・」と聞かれて、昨年の影響がいい意味でこれほどまで残っていることにも嬉しくなりました。今回は昨年以上に疲労感が強かったのですけど、それだけ進歩をしたという証拠であり、充実感で新幹線に乗って帰宅してきたのでありました。実行委員長をはじめ、皆さん本当にお疲れさまでした。