『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

新型インフルエンザと鍼灸治療

 インフルエンザとは、インフルエンザウィルスにより引き起こされる発熱や赤硝上のことであり流行性感冒とも呼ばれているのですけど、いわゆる風邪とよく似ていますがその症状を軽視してはなりません。今回は2009年に世界中で大流行している「新型インフルエンザ」に対して、鍼灸治療がどのように対処すべきかを自己体験も含めて書いてみます。

 インフルエンザと風邪を一見して判別することは不可能であり判別には使薬による検査が必要です。インフルエンザが今まで懸念されていたことは感染力が非常に強く、少しでも体力の弱っている場合にはそれまで症状がなかったのに発病してしまい、また合併症を引き起こしやすく基礎疾患を持っていた場合には重症になるケースも珍しくなかったからです。ただし、近年は「人インフルエンザ」の世界的大流行がなかったため、風邪の一種のように捉えられていてその恐ろしさに目が向けられていませんでした。

 人インフルエンザは2004年に中国で流行した原因不明の肺炎(サーズ)からとくに注目されるようになったのですけど、それ以前から鶏が掛かる「鳥インフルエンザ」が人間から人間へも感染するタイプへ突然変異して地球レベルでの大流行を引き起こす時期にそろそろ来ていたところへ、豚インフルエンザが人間から人間へ感染するタイプへと突然変異を起こしてしまい2009年は世界中で新型インフルエンザに接見されてしまいました。
 「鳥インフルエンザ」は特に毒性が強く、このインフルエンザ菌から過去のスペインかぜやアジアかぜが発生してきたことは科学的にも証明されており、歴史的にも半世紀に一度はこの種の流行病で多くの命が奪われてきています。どうして半世紀に一度くらいのペースで発生してくるのかは不明なのですけど、一説には恐竜の絶滅は氷河期が来たからではなくインフルエンザによるものだともされるくらい、生命の歴史と深く関わっている問題であります。

 さて今回の新型インフルエンザは、メキシコにあるアメリカ資本の養豚場から発生してきたものだとされ、その衛生状態については以前からかなり指摘されてきたものが「とうとう」という感じで豚インフルエンザを引き起こしたと報じられていますけど、この養豚場は主に日本向けの豚を生産していたといいますからこれまたビックリです。
 幸いにも毒性に関しては季節性のインフルエンザと変わらないレベルではありましたが、地球上のどの人間もこの種のインフルエンザに対して免疫を持っていないために爆発的大流行(パンデミック)が警戒されました。WHOの警告も最高のレベル6のままであり、航空機による海外渡航が頻繁となっている現状ではアフリカでインフルエンザ患者がでたという珍事では済まない事件も発生しています。それに先進国が集中している北半球が夏に入った頃に世界的な蔓延時期となったのでそこまでは注目されなかったものの、南半球では集中的な死者も出しています。

 前置きばかりが長くなってきましたので、そろそろ本題へと入ります。まずは政府が大騒ぎして国民も摂取を待ち望んでいるかのような雰囲気のインフルエンザワクチンですけど、小林鍼灸院“一本の鍼に心を込めて気を込めて!”の小林先生がインフルエンザワクチンは必要?それとも必要でない?いったいどっちなの!?という記事で詳述しているように、ワクチンが仮に効力絶大だとしても摂取する時点では無力になってしまっています。
 また大人気ブログきっこのブログなので既にご存じの人も多いかも知れませんが、やっぱりという感じで輸入ワクチンの危険性が露呈というエントリーで製薬会社の儲けのターゲットにしかなっていなかったことが分かります。

 ということで、発熱などに対する対処療法は特に重症患者に対しては西洋医学が優れているとしても、根本的な治療法がないことが分かります。いや、風邪には根本的な治療がないことなど既成事実なのですけど、民衆が知らないというのか知っていても知らんぷりすることで「最後の砦」の安心感を得ようとしているように感じています。だから長時間の待合室で余計に具合が悪くなることを知っていても、入院をしたがゆえに院内感染となり死ななくてもよかった人が死んでいてもみんな病院を目指しているのでしょう。
 さて鍼灸ですが、西洋医学をベースとしたいわゆる刺激治療では何も手を出すことができないのは、素人が考えても明白です。対して経絡を積極的に活用するいわゆる経絡治療の分野では、感冒治療はごく当たり前のことであり私の子どもは三人とも病院で治療を受けたことなど一度もありません。

 私が専門課程に進学して「経絡」を体験したことはいくつもあるのですが、その中でも著効に驚いた体験は風邪でした。今から思えば、インフルエンザの可能性が高いですね。それは二年生の二学期の期末試験であり、高熱と咳と鼻水に苦しみながらも筆記試験を終えて実技試験を待っている時でした。あまりの症状に担当教諭からも順番を繰り上げてあげようということになって隣の部屋で待っていた時、明日の東洋医学概論の予習を兼ねて「この病状なら選経・選穴はどうなるのだろう」と考察をしてみました。
 今からでは短絡的な発想そのものなのですけど、まず呼吸器疾患があまりに激しいので証は肺虚ということで選経も肺経。咳や鼻水もひどかったのですが身体内部からの熱っぽさが苦しいので、身熱すということで火穴が該当ではないかと選穴は魚際。男は左から女は右からという原則をそのまま信じて、右手の拇指と示指で鍼を挟んで左魚際へ鍼は何を使ったのか忘れましたが適当な取穴で軽く刺鍼し、少し響いた感じだったのですぐ抜鍼しました。
 浅い刺鍼で響いたことにその時にはビックリしたのですけど、五分も経過しない間にあれほどひどかった咳が治まると同時に身体内部の熱っぽさがほとんど消失していることに仰天しました。実技試験が始まった時には「あれっ、風邪と違ったんか?」と逆に尋ねられたので経過を説明しましたけど、とても信じてもらえるはずがありませんでした。この体験ですぐ経絡治療の世界へ没頭していったのではなく研修会に誘われて初めて本格的な取り組みとなったのではありますけど、鮮烈な体験であり決して鍼の効果は深さに由来するのではないとこの体験は忘れられないものとなりました。

 次に今回の新型インフルエンザですけど、これだけ蔓延していると感染するなという方が無理です。子どもも咳をしていましたが、親父が高熱を出して入院の必要はなかったのですけど独居老人の気の弱さから一週間入院していたので、その辺りから感染してしまったのでしょう。私は毎年冬の最初と最後に風邪をひいてしまう癖があるのですけど、今年は冬の最初にはまだ遠い十月下旬に症状がでてきてしまいました。しかも発熱など数年に一度もないのに、明らかに発熱しています。
 「これは遂に新型に感染したな」ということで、しばらくどのような経過になるのかを人体実験です。当初は季節性インフルエンザと変わらない症状だったのですけど、午前中の診療を終えてお弁当を食べてからコタツで昼寝をしていたなら咳が止まらなくなってしまい、発熱も相当なものに突然変化していました。免疫がないので感染力が非常に強いということと、突然に症状が変化することが恐れられている要因だと実感です。
 関心ばかりしていられないので、すぐ午後の診療前に本治法です。一番の問題は全身症状が悪循環に陥っていることであり、これはどこかで経絡の停滞が発生しているということで陽経の停滞も考えましたけど咳とたんが一気にひどくなってきたので陰経を考えると肝実しかあり得ません。脾虚肝実証か肺虚肝実証かを考えると内臓の症状は今のところなく、目眩が少ししてきたので肺の宣発作用が低下してきたと判断し脉診や腹診とも合わせて難経七十五難型の肺虚肝実証で復溜・陽池・養老に営気の手法を全て左側で行いました。用鍼は二木式ていしんです。全て自分で行った自己治療です。
 これで午後一番の診療は問題なく行えるようになり、その後は時間が空いたので助手の練習も兼ねてフルコースでの治療を受けて夜には体調も戻りました。咳が止まるまでには数日掛かりましたが、繰り返し治療はしていて今はそれまでの腎虚証に戻しています。

 人体実験をしていたので症状を一時ひどくしてしまいましたが、新型インフルエンザであっても鍼灸治療は治療ができるというよりも、日本の医療の中では唯一の根本治療ではないでしょうか。それもていしんのみでの治療です。小児鍼の来院が最近多いのですけど、来院後の子どもたちは全てすぐにインフルエンザから回復しています。