『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

プラウト主義と鍼灸治療の今後について

 この文章は年頭所感として打ち込み始めたのですけど、気が付けば前半の経済面へのコメントが長くなってしまいました。途中を飛ばして読んで頂いてもあらすじは分かりますが、苦虫をかみつぶすような難しい説明をしたわけではないので、できれば通読をお願いします。(院長)

 わずか10年前の1999年から2000年へと年明けする際には、「コンピューターの2000年問題」や記念すべき年越しをどのようにすべきかなどで大騒ぎしていたものですけど、現在はバブル崩壊以上の不況にあえいで不況の時こそ景気づけにという派手なイベントもなく「巣ごもり消費」が主流となっていました。次の十年後には、どうなっていますことか。
 ちなみに私が2000年を迎えたのは家族旅行での石川県の温泉であり、NTT docomoの金沢支店だけが不具合を出していたのであり北陸原発でもプログラムミスから運転が一時停止するという、特異な地域に生息していたという思い出がありますけど。

 さて2008年秋のリーマンショックに始まる世界大恐慌に匹敵する地球的不況は、豚インフルエンザが人間から人間へと感染するタイプに突然変異をした新型インフルエンザの流行にも追い打ちされて2009年は業種によっては不況のどん底という感じでありました。けれどアメリカでは黒人系で初めてとなるオバマ大統領が就任し、日本でも半世紀に渡る政権独裁状態だった自民党政権から民主党へと民意が動きました。残念ながら両方ともまだその独自色も回復への起爆剤も本格展開に至っておりませんけど、これは交代からまだ日が浅いので酷評するには少々厳しすぎるでしょう。
 ここで「不況の二番底がやってくる」と懸念されている件について先に言及しておきたいのですが、リーマンショックが発生した直後にアメリカのジャーナリストや政府関係者は「2009年一杯まで耐えれば脱出できる」と表現していたことです。この言葉を聞いた直後の私は「えぇっ、一年以上もの切り捨て地獄が続くのか」と嫌悪感を抱いたものではありますけど、よく考えればアメリカの会計年度が切り替わるのは秋であり新大統領が就任してから次の年度が始まってしばらくしてというのは、まだ早い方であると気が付きました。
 そして患者さんから教えてもらった輸出に関する依存関係なのですけど、かつて勤務されていた工場では草刈り機などを製造しているのですが船便で輸出しないと個数もコストも引き合わないので現在生産しているものは船積みするまでの三ヶ月先のものであり、船が既に出発しているのでその三ヶ月先のものつまり半年後のものまで輸出状態であり、実質的には来年の分まで生産完了しているとのことです。リーマンショック後にすぐ製造調整に入ってもそのまま売れ続けていても来年のものが既に出来上がっているので、派遣切りをして調整に入れた段階で受注回復が見込めるのはどう考えても2010年の在庫がはける見込みが付いた段階という話でした。話を聞いたのは2008年の暮れでしたけど、とても説得力があり納得できる話でした。
 この一例にしてもそうですが、アメリカの経済動向が日本に反映されて来るには四半期分遅れてくるようになっている現状の経済では、日本の脱出は早くても2010年の春以降という予測ができることは、経済の専門家でない私にでも容易なことです。

 そして夏以降の派遣切りが落ち着いた頃から、なりきりコメンテーターの私が治療室でよく話していたのは次のような概略です。
 既に日本の人口は減少に転じているのであり、今までのような右肩上がりの生産増量と収入増を模索するというモデルはもう古い。人口が減少しているのに生産量だけ上げようというのには無理があり、これからは生産量は現状維持で利益がしっかり確保される形式を模索すべきである。そのためには努力が必要であり、努力した人にはそれなりの実入りがあるかも知れない。
 ただ「生産者」という役割を社会の中ではしてくれる人も必要であり、今までの第三次産業に従事できなくなった人は農業や漁業など第一次産業へ転身してもらう必要はでてくるだろう。特に農業の伝承技術は段々と乏しくなってきているので、食糧自給率のことも考慮すれば国の就労支援はこの点に注目すべきである。ニーとなどの未就労者についても、同様である。

 さて鍼灸院の「院長ブログ」としては、ここまでの内容と鍼灸にほとんど関係性がないので意識した書き方へと変えていきます。
 ちょうど私が考察し予測していることと全く同じことの書かれている記事が、資本主義経済は激変し、マネーゲームは終焉する - livedoor ニュースでアップされていました。要点を拾い上げると、リーマンショック後にほとんど影響を受けなかったのはインドのみで、インドは内需拡大策に特化していたからだという。中国も立ち直りが早く、これも似たような状況だったからである。そして今後はプラウト主義が台頭するのではという予測である。プラウト主義とは、自国産業保護や終身雇用などによる所得格差の少ない安定社会を目指す考え方だ。かつての日本の「1億総中流社会」のような経済社会システムに世界は変容していくことになるとあります。
 アメリカが引っ張ってきた資本主義とはハイリスクながらもハイリターンであり、これは金融の理論操作でバランスを保てるものだとされていたのですけど、サブプライムローン問題からもろくも崩れてしまいました。本当は借金してきたお金なのに「わしの財布にはこんなに札束があるぞ」と豪遊を繰り返していたようなもので、その借金はマネーゲームで返済できるはずだったのですが予期せぬゲームオーバーに直面してしまっただけでなく、貸していた側も返済してもらえるものと思い込んでどんどん札束を印刷していたものですからさぁ大変。使ってしまったものは元通りにせねばならないのですけど、取引をする相手にもお金がないので仕事が成立しません。仕事を何とか取ってくるために値引き合戦が始まり、仕事はそこそこ回るようになっても今度は従業員への給与が支払えないので給与カットをすると末端での買い控えが発生し、買い控えの扉をこじ開けようとしてさらなる値引き合戦へ・・・。これがデフレですね。
 医療にも受診を控える動きがあって不思議ではないのですけど、新型インフルエンザの流行で病院の患者数が減ったという話は聞きません。すると廃棄するほど購入していた薬の量を減らしたことと、西洋医学以外の医療で受診を控えているのは簡単に予想ができます。具体的にはカイロプラクティック接骨院、そして按摩や鍼灸ということになりますね。

 しかし、どこの世界でも不況を逆にバネにして伸びている会社や製品があります。衣料品では適当な価格破壊ながらも品揃えと品質で一人勝ちしているチェーン店や、今まで「早いだけじゃない」といわれてきたのにボリュームの多さと低価格で存在感の増した中華料理のチェーン店、地味だったのにブームにさえなってきたB級グルメの外食店、環境にも配慮されてヒットしている充電式電池や電動アシスト自転車などなど、共通点はチャンスをつかんだのではなく必要な消費にうまくターゲットが合わせられたのでしょう。
 では、鍼灸の世界はといえば医療は必要な分野であり、西洋医学カイロプラクティック接骨院も成熟した患者層が高齢化するだけなのですけど、鍼灸の患者層は未成熟なままです。早く治るという実力は世間一般に知れ渡っているのですから、一般家屋の一角ではなく独立店舗かテナントの清潔感溢れる施術書で予約制にして待ち時間をゼロとし、人間が人間を治療するという当たり前のことを誠実に行えばターゲットは向こうの方からロックオンされてくるはずです。
 でも、向こうからロックオンされてくるはずではありますけど、鍼灸さえしていれば未成熟の患者層が群がるように治療を求めてくるというほど甘いものでもありません。同じ外食店でも流行るところと流行らないところがあるのは、やはり工夫と努力の差をしっかり見られているからでしょう。ですから、通電したり深く刺鍼するばかりの鍼灸では新たなそうを取り込むことはほとんど不可能であり、鍼灸独自の経絡を積極的に活用した治療法でなければならないことは必然です。
 そこで、ていしんによる「全く痛みの発生しない治療」と脉診を中核とする独自診察法による正確な診断と予言、研修会に参加しての話題を伝えることでの安心感の増大などなど、攻める姿勢を私は崩さないことも重要に捉えています。特に研修会へ参加した時の話題については興味を示される患者さんが多く、まずは「出すものを出さなければ入ってくるはずがない」という好例でしょう。
 それから今年はやっと準備が整ったからではありますけど、年始めに小児鍼専用ベッドを追加する予定です。これで小児鍼も、小児鍼が割り込んだ時の大人にも予約のズレが亡くなりますし、ここ数年間は助手に小児鍼の実践をしてもらう機会が減っていたのでその回復にもつなげられます。

 右肩上がりの経済モデルは、もはや幻想でしかありません。しかし、身の丈にあった経済モデルなら努力を惜しまなければ必ず実現ができます。世間一般の鍼灸師には、とにかく研修会に参加して切磋琢磨することを今年も呼び掛けていきたいですね。