『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

歴史に残るオープン例会

オープン例会で三人記念撮影

 ここ数年間は滋賀漢方鍼医会主催によるオープン例会を冬に開催しているのですけど、2010年度のオープン例会は「歴史に残るオープン例会」となりました。開催日時は2011年1月16日の日曜日でした。

 そもそもオープン例会とは、漢方鍼医会は治法にもいくつか組織があって本部も治法も対等の立場として活動を続けているのですけど月例会は所属する会員によって運営されますから外来講師を招いた時に外から参加者を受け入れることはあっても普段は行き来することはないので、これをオープンな形で行おうという試みです。大上段に書かなくてもいいと思われるでしょうが、対等な立場ということはその組織ごとに特色ある研修も行っているということであり、そしてその成果はお互いに共有して技術向上に役立てているのですけどそれなりに不干渉な部分もあるので、敢えて「今回はオープンにしますよ」という呼びかけをしています。それでも月例会の日程が重なっているので交流できない組織同士というのもあるわけではありますが・・・。
 大阪漢方鍼医会との合同例会という形で始まりオープン例会という名称に変更したのですが、三年前より合同での開催から滋賀漢方鍼医会単独での主催となっています。そして単独で主催するのなら「滋賀でないとやらないだろう」というものにしようと、鍼灸院を会場にして実技のみの例会としています。漢方鍼医会の実技は出身である東洋はり医学会からのいい伝統を受け継いでこってりした懇切丁寧で納得できるまでの実技指導なのですけど、それでも研修会の実技と臨床室の治療スタイルとは異なります。まず研修会では学生を含んではいますけどプロの鍼灸師同士ですから問診など診察に不備がなく軽傷で単発治療なのですが、臨床室では素人相手ですから推測での診察が必要であり重病もあって基本的には継続治療です。そして漢方はり治療の基本スタイルにプラスできればいいという臨床テクニックはそれぞれ持っているのですけど、研修会の大勢の中では個別に伝授できない制約やら知熱灸や刺絡など公的施設では行えない実技もありますし、電動ベッドを使った時との違いなど特に開業をしていない人やこれから臨床投入しようという人には一番欲しい情報が届いていないかも知れないということで、昼休みも削って実技のみの月例会としています。それから、これだけ内容が濃いものでもありオープン例会ということなので一般聴講は不可にして、説明を極力省いての実技を徹底させた研修会としています。

 それで会場は「にき鍼灸院」で行っているのですが、冬の彦根で心配されるのは積雪です。けれど地球温暖化を喜んではいけないのですが昔のようなことはなく、例え積雪があったとしても自動車があれば充分に動けますし電車が止まってしまう心配もありません。それから寒い時だからこそ琵琶湖を展望する天然温泉に入ってからの懇親会というお楽しみも待っているということで、また外部からの参加者に刺激されるということで滋賀漢方鍼医会の会員は待ち望んでいた県周回でした。
 ところが、センター試験の時には必ず雪が降るといわれているように見事に大寒波と遭遇してしまい、前日までは雪のかけらもなかったのに翌朝になってみるとスキー場ではないかというくらいの積雪になっていました。一昨年は十一月の実施でしたから積雪の心配はなく、昨年もかなり暖かく感じた日だったので「まさか積雪があっても大したことは」と楽観的だったのですが、彦根としては八年ぶりの降雪量だったとのことで洒落になりません。この日は20cm少しだったのですが、明くる日には30cm近くまで積もりましたから娘の幼稚園も自由登園ということで、自宅待機をしてもお休みにカウントされないくらいでしたからね。
 それでも前夜から出発している人もいるので、参加者全員へも連絡が出来ませんから今さら中止というわけにも行かず小林先生と協議をして研修会そのものは強行突破で開催することに。しかし、新年会に関してはその日のうちに戻れなくなってしまうかも知れないということで主催者判断によりキャンセルも決定しました。

 滋賀漢方鍼医会のほとんどは上りの在来線ですから足元も固めているので予定時刻あたりで集合してきたのですけど、東京・名古屋方面からはまず新幹線が半時間程度遅れています。そして、下り在来線は確認が必要だったのか自転車程度のスピードでしか運転されなかったので私の奥さんが南彦根駅まで自動車で迎えに行ってくれたのですけど、携帯電話の連絡から半時間も待っての到着であり、全員が集合したのは予定時刻より一時間遅れてのことでした。主催者としてはこの足元の中をお越しいただいたことにとても恐縮していたのですけど、雪のない地方の先生方は雪景色を結構楽しんでいた?あっそうそう、彦根の冬はずっとこんな景色のままではありませんので、あしからず。

 しかし、自己紹介をした後にはプログラムを一部変更しながらも予定通りの実技は全てこなしました。まず腹部を用いての臨床的手法修練なのですけど、二月に本部研修会で私が発表する内容のリハーサルを兼ねさせてもらい衛気・営気の手法が適切に行えているかの臨床的で客観的な修練法を延長して時間的なものまで組み入れるという実技にしました。つまり、手法そのものの形というものが一番に大切なのですが適切な時間というものがあるのも分かっているのに、それをどのように判断し実践していいのかが分からなかったので、手法修練の中へ組み込めるようにしたのです。すると思っていた以上に手法の時間は短くていいというのか、やりすぎていたというのか。何度も例え話にしてきましたが、山の頂上というのは一点であり頂上で抜鍼するのが効果を最大限に発揮できるのですけど、術者が手応えを感じるのは頂上に達した時ですからそこから動作に入っても抜鍼した時は既に下り坂ということで、手応えが来そうな時から抜鍼動作に入ってちょうどだということを実践しました。
 頭では理解できても実際には手が動かないので、「1・2・3・4・5・・・」と誰かがカウントしてあげながら、抜鍼のタイミングを最初に決めて取り組むと実技が成立するのだと進行のヒントがもらえました。本部の指導者クラスの先生にやってもらったのですが、驚きと手応えの言葉をいただきました。また営気の手法についても同じであり、意外とこちらも手法の時間は短くていいようです。これは松田博公先生が「鍼灸ジャーナル」の対談企画で来院された時にも実技をしてもらい感嘆の声を聞いているのですけど、客観的な手法修練が確立されれば鍼灸の世界の壁を大きくうち破れるのではないかと手応えを持っている次第です。
 午前の残り時間ではローラー鍼と円鍼の実践を行い、臨床室では如何に持続力を持たせるかの工夫があることも知っていただけたのではと思います。それから風邪の時期ですから、必殺の擦火法の修練も行いました。

 昼休みを圧縮して午後の実技では、まず臨床的自然体についてです。基本的な自然体については入門の最初に教えられるものですから漢方鍼医会の会員で出来ない人はいないはずですけど、ベッドサイドに立って素人のしかも充分に身体の動かせない患者さんに対して、どのように自然体で鍼をすることが出来るのか?患者さんも「気」は沢山持っているのですが、「病気」という病んだ気なのですから術者は楽な姿勢で天空の気と地の気を術者の中で合わせて送り込むのでなければ自分がしんどくてたまらなくなります。そのためには基本的な自然体で会得した臍下丹田に重心があることを思い出して、例えばベッドの角を回り込んだり足を前後させたりして術者の重心を捉えやすくしたり、出来る限りベッド上に患者の身体を重ねて術者は支えない工夫をするなどが臨床的な自然体であると研修を積み重ねていきました。
 そしてちょっとブレイク気味の実技ですけど、関節の整復法について注意点を交えながら実技をしました。その後は小里方式となるのですが、午前の手法の時間に加えて、「胃の気」が出たと脉診で判断した経穴を用いたがる癖がどうしてもあるのですけど、伝統鍼灸学会で指摘されていた素問・霊枢の時代の脉診が「当てにならない」のであればそれでも治療が成立していた背景は浮沈・遅数など祖脉を整えることに終始していたからではないかと考察し実践してみたところ、途中経過に難癖をいわなければ菽法ピッタリの脉状が作れることを参加者にまずモデル治療の腹診で判断できる気血津液論からの証決定のヒントを土台に体験してもらい、その後の各班に分かれての実技となりました。
 まだ実技は続きまして、これはヒントの解説のみでしたが自己治療のポイントです。要約すれば自分の治療だと脉診が余計にわかりにくいので、祖脉が整うことを目標にすること・手の経穴に施術する時には普段に比べて少し余分に鍼をずらせてくることでピッタリに当てられること・片手で鍼を持つ時には余分に出した鍼先をどこかに押しつけることで調節できることなどでしょうか?
 フィナーレは小児鍼で、当初の予定では時間まで外で預かってもらってのゲスト登場というところだったのですけど、残念ながら二階で大暴れの楽屋丸見え状態からの登場でした。小児鍼については学会誌やホームページそしてビデオでも解説しているのですけど、実際の子供に施術体験をするという機械がない人もいるということで今回の目玉の一つでした。しかし、全員が充分に実技する機会には恵まれなかったということで滋賀漢方鍼医会の会員には来月以降にまた実技をしてもらうと指示していたのですけど、研修会で託児システムを用意するということは小児鍼のモデルにもなってもらうということで会員への貢献を果たしてもいいのではないかと思った次第です。このような条件であれば、どこの研修会側も喜んで託児料金の折半に応じてくれるでしょう。

 外は吹雪が続いていたのですけど、研修会中はそんなことを全く忘れる熱気でした。終了時間は半時間遅らせたのですが、それでもこの時間はぎりぎりだったようで、また奥さんに南彦根駅まで足元の用意のない人は自動車でおくってもらいましたが新幹線は東京到着が一時間半遅延していたとのことでした。まぁ勝手に新幹線の中で新年会をしてくれたことでしょう。滋賀漢方鍼医会は、新年会のやり直しをまた計画ですね。
 とにかく大雪の中を決行したにもかかわらず、参加者の熱気に支えられたオープン例会でした。過ぎてしまえば「よかったよかった」の報告ですが、一歩間違えば誰かが事故に遭遇していたかも知れないということで真冬の開催については今後の検討課題ですね。でもでも、滋賀漢方鍼医会の会員数に対して治療室での例会は毎度のことながら申し込みの遅さからしんどいので今後はオープンの時には止めようと内心固めていたのですけど、このままでは悔しいので、研修会後に天然温泉に入って新年会に参加してもらうはずだった人を招いての開催を絶対にやると宣言します。

 それで写真ですが、オープン例会で小児鍼のモデルとして登場してきた我が子の三人兄弟です。


追伸のようなものですが・・・
滋賀漢方・オープン例会■名前:ichibando■2011/01/17という記事もアップされているので、ご覧ください。
それからこの足元の中の研修会でしたので、参加者に限りですけど撮影したビデオのDVDを参加費の残りからメディア購入が出来たのでダビングして配布をします。