『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

滋賀漢方鍼医会で初の単独合宿

 2011年7月17日(日曜日)・18日(月曜日、祝日)に掛けて滋賀漢方鍼医会では初の合宿研修を実施しました。大々的に数年前から計画していたものではなく、毎年開催されている漢方鍼医会夏期学術研修会が来年に控えた二十周年記念大会に向けて今年は充電のためスキップとなり、「それは寂しいなぁ」という単純な発想が発端でした。しかし、発端は単純でもそこへ至る意義が大きいのでまた長文気味ですけど、書き残しておきます。

 東洋はり医学会滋賀支部時代からを含めて、今まで滋賀の研修会で行ったイベントを振り返ってみると次のようなものが思い出されます。まずは10周年での記念論文集ですけど、これは基礎講座も書いて新しい会員への資料提供も兼ねての製本をしましたね。しかし、原稿の集まり方がはなはだ悪く、また印刷も初めての試みでイメージと違うものとなり、学校の文集のような小冊子で終わってしまったという、ほとんど敗北からのスタートでした。ちなみにこのころからイベントは毎回担当となり、今に至っているわけですが・・・。
 この頃には既にパソコンが導入されていて、確かワープロソフトで校正支援機能もあって活用もした記憶があるのですけど、どうしたことか自己満足にも至らない小冊子になってしまったことが反発のきっかけとなり、「次はどうしてもオリジナルコンテンツを持ったものにしなければ」とみんなが決意していました。東洋はり医学会が発行していた『要穴の部位と取り方』という小冊子が当時経穴の勉強に一番役立っていたのですけど記述があまりに簡略化されていたので注釈を入れているうちに、これを次の作品として残そうではないかと自然発生的に編纂作業を何年も掛けてやるようになっていました。
 まだこの時期は滋賀漢方鍼医会とはなっていなかったのですけど、私は漢方鍼医会創設から参画しており研修スタイルは移行期にありました。それで四国で開催された伝統進級学会に参加することを兼ねて一応の15周年は記念旅行をしており、その帰りの電車の中で「入門者用の理論編をまとめ治したいのだけれど」という声が挙がってきたので、何度も漢方鍼医会で基礎テキストを編纂しようという話が出ては立ち消えになっていたので「よっしゃこれや!総合テキストが出来るぞ!」というプロジェクトスタートにわくわくしたのを覚えています。

 そして『要穴の部位と取り方』を基礎に全面的に書き換えたセクションを作り、理論編を書いてもらいオリジナルの実技編を書いて、大幅に付録もくっつけたのが「経絡治療の臨床研究 やさしい解説と実践取穴法」のオリジナルテキストになったのでした。
 そしてオリジナルテキストを発行するために東洋はり医学会を離れて滋賀経絡臨床研究会という単独団体に一時期なっていましたけど、テキスト発行が済んだので漢方鍼医会の十周年記念大会に合わせて滋賀漢方鍼医会の発足となりました。その後も滋賀経絡臨床研究会は、テキスト発行のために名称だけは今も残っています。それから実践取穴法のセクションは、二十周年記念事業の「取穴書」作成委員会へと引き継がれています。

 そして滋賀漢方鍼医会となってからの一番のイベントは、第15回漢方鍼医会夏期学術研修会 滋賀大会を主催できたことでしょう。様々な困難がありましたけどテーマを「証決定」へと梶を切ることにより、その後の漢方鍼医会の取り組みにも大きな色合いが残されています。
 刺さないハリ ていしん入門 森本式てい鍼を使った治療(岸田美由紀著):ヒューマンワールドDVDで学ぶ 刺さないハリ ていしん入門(出演:岸田美由紀・二木清文・森本繁太郎)という書籍も送り出せるようになり、昨年度からは自分たちだけで「いいことをしている」と自負していてもやはり大きな輪となり数の力も示さなければならないということで会員数を大幅に増やす作戦として、聴講費の初回無料制度を導入したところ一気に会員数が伸びてきてくれました。今までに取り組んでみたいけれど敷居が高そうだと思われていたり金銭的な心配から踏み出せない人が多かったようで、そういえば私も勉強会に参加したのは学生は無料で聴講できるという処置をしてもらえたのがきっかけだったかも知れませんし、その分だけ泥沼にはまっているのでもありますけど。

 昭和30年代半ばから講習会が行われるようになった経絡治療ですけど、その当時はリュックサックほどの大きさがあるオープンリールのカセットデッキを背負って遠方から参加し、資料は点字板で手打ちした点字ガリ版刷りの資料をボランティア的に用意してもらっていたそうです。自分たちのメモも、似たような状況だったらしいです。ですから私が入門した頃には先輩たちからいわせれば、「カセットテープでの録音が手軽となり雑誌も毎月発行されて情報が豊かになった」らしいですけど、それでもリアルタイムで情報が伝わってくるわけではありませんでしたから合宿が企画されたなら先輩の生の声が聞きたくて出席を是非ともお願いしたものでした。
 時代が流れて、録音はICレコーダーで収録し配信はインターネットで明くる日には全ての会員へ届くようになりました。資料についてはメールの添付ファイルで流すことにより事前に予習が出来るようになり、メモも点字電子手帳や小さなパソコンを使うことでそのままデータとして残せるようになりました。メールだけでなくスカイプなども活用すれば、治療室から先輩のアドバイスを即座に受けられることも可能になっています。
 そうしたなら「どうしてもリアルタイムで先輩の生の声を聞きたい」という欲求をぶつけてくる新人が減った気がするのは私だけではなかったようで、「合宿して研修することの素晴らしさと魅力を今年は夏期研がスキップになったのなら滋賀単独でも実施しようではないか」という声が複数持ち上がり、年度が替わる前に起案しておかねばなりませんからイベント担当の私がまた登板することとなったわけです。

 まず参加しやすい費用設定については毎年の夏期研参加補助が予算に組み込まれるのでこれをそのまま流用すれば個人負担が極めて少なくできそうです。しかし、旅行をするのではありませんから宿泊と食事代の計算だけではダメで、ベッドの用意やその付きの聴講生の受け入れはどうするのか、また託児など月例会なら既に出来上がっているシステムをごっそり移動させて再構築するのは相当な労力です。そこでコロンブスの卵ではありませんが、出来上がっているシステムなのですから月例会はそのまま実施することにすれば聴講生の受け入れも託児も宿泊できない会員の研修も全てクリアとなり、移動できる範囲のホテルを探して合宿とすればいいのだと発想を変えました。
 ホテル施設のことなどは省きますが、夏ですからビアガーデンでのバーベキューは盛り上がりましたし、その後の二次会が本当の知識吸収の時間として有意義でした。また男性のことしか分かりませんけど、一緒に入浴することで文字通りの裸のつきあいとなり気の許せる仲間という意識が増しました。
 朝食での談笑も、懇親会での会話とは違っての知識吸収の場となりました。そして二日目の研修は会員からのリクエストによる実技であり、これも普段の月例会だけではなかなかチャレンジできない分野でしたから、今後のプログラム編成に大きな影響となってくるでしょう。

 研修終了後の充実感はすぐに伝わってきましたし、何よりも喜びのメールをすぐに投稿してくれる会員が何人もいたことが嬉しかったですね。
 時間の制約から月例会はどうしても初級・中級レベルでは技術を伝えることが、上級レベルではお互いの技術交換が主体となってしまいますけど、鍼灸術というのは技術だけで成り立っているものではなく根底には「人」がいなければなりません。研修会で切磋琢磨するというのは本当は人物像を切磋琢磨するのが先で、そのバックボーンとして技術を語れればいいのですけど、個人の生活もせねばなりませんから理想とは逆になってしまいます。しかし、これを補うために積極的に懇親会を企画しているのであり夏期研が開催されています。今回のような単独での合宿もまた実施できればいいのですけど、経費や夏期研との絡みで次の実施はいつになるか分かりません。
 でも、今回の合宿は時間が経過するに従って大きな意味を持ってくると実感しています。そして、この成果を持って来年の二十周年記念大会へ参加していきたいと思います。