『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

漢方鍼医会20周年記念大会レポートその3、番外編でしょうこれは

 漢方鍼医会20周年記念大会レポートも第三弾となり、「まじめ」モードはひと休みして今回は裏話モード一色で書いてみます。といっても、「そんなこともあったのね」くらいで仰天するような裏話はないのでありますけど。


点訳作業が、まぁ大変

 点字を扱える人の割合が減少しているのですけど、それでも点字は大切な視覚障害者の文化です。そして勉強をする時に「最後は点字でなければ」という人は多く、私も点字板と点筆で直接に点字を打たなくなって久しいですが、勉強の最終段階では絶対に点字を読みたい派なのです。
 ということで、最近の夏期研では私が要録データから点訳作業を担当することが何度かありましたので、今回も引き受けることにしました。
 短期間での点訳作業が必要であり点字図書館側では専門用語の読みこなしがとてもできないということで、こちら側で自動点訳したデータの単語を正しい読み方に置き換えてからデータを転送し、レイアウトを調節してもらいプリントアウトから郵送という流れでやってもらってきました。今回も点字図書館へ作業をお願いした時の電話なのですけど、「夏になって私が点訳の話を持ちかけてきたなら例の難しいやつです」との申し出に、「そろそろやってきそうな予感がしていましたぁぁぁ」と、嘆息混じりの返事をいただいてしまいました(笑い)。でも、今回は本当に嘆息が出る作業になってしまったのですけど。

 今回は20周年記念大会と夏期学術研修会が合体した要録なので、データ量が多いことは事前に予測できていました。そこで今回は、なるべく全てをピンディスプレイに触れて編集するのではなく、音声だけで通過できる部分は通過できるようにさせようと作戦を立てました。
 今まで使っていたピンディスプレイがブレイルメモ16だったので、単独で利用するにはとても重宝し貴重なアイテムだったのですけどパソコンへの接続はUSBコネクタを持っていないので変換ケーブル経由となり大がかりで、点字エディタの外部ディスプレイモードにするのも面倒な手順が必要でしたから、ついデータの転送のみで編集はブレイルメモの内部エディタで行っていました。今回はブレイルメモ32へ置き換えたので、USBケーブルで接続しておけばパソコン側の点字エディタ「ブレイルスター」を起動するだけで自動的に外部ディスプレイモードとなり、外部キーボードとしても動作するので行単位の読み上げと併用すれば音声での確認のみで、おかしな箇所だけ編集し治せばいいので作業が非常に効率的となりました。
 これをもう一歩効率を考えて、無線接続となるブルートゥースアダプタを実行委員会へお願いして購入させてもらいました。USBケーブルの接続は簡単なのですけど、それでも毎回持ち出してくるとなると面倒ですしケーブルを引きずりながらの作業もうっとうしく、いつものブレイルメモと変わらないスタイルで使えればと思ったわけです。
 非常に手ごろな価格でアダプタはあったのですけど、規格がマニュアルに掲載されている2.1ではなく4.0しか既に存在していないので、しかも付属してきたソフトが8cmCDに収録でしたからちょっと困惑してサポートに半時間近く電話をする羽目にはなりましたけどね。アダプタを差し込むと変にパソコン側からアダプタが認識をされるので、余計にややこしかったですね。ちなみに下位バージョンはサポートされているので、4.0規格で何ら問題はありませんでした。初期設定だと転送速度が遅いので、ここだけはブレイルメモとパソコン双方の調節が必要にはなります。
 それで、視力を借りてソフトウェアがインストールできればこちらのもので、作業へ取りかかる前にブレイルメモ32を起動しておく手順さえ間違わなければデータ転送プログラムも外部ディスプレイモードも自動認識してくれますから便利この上ありません。専用ピンディスプレイを使うのと、ほぼ同じ状態が再現できたわけですね。今までこんなに便利なこと、どうしてやってこなかったのかと大笑いしてしまいました。

 しかし、実行委員会側に催促して届いた要録のデータ量を見て、予測を遥かに上回っているのにはビックリ。結局点字では、二冊に分冊させることになりましたからね。まずはワードからテキストファイルへ変換して、そこから必要なセクションごとに分割しながら保存し治すことで効率化を図りました。ここで困ったことは、パネルディスカッションの資料があまりに膨大なので、どこまで点訳をして・どこから先は割愛させてもらうかの判断でした。
 自動点訳ソフトのイブキテンには蓄積したユーザー辞書があるので、剛柔論と邪正論以外の資料はブレイルスターとの連動が軽快で、おもしろいように作業が前へ進みました。特に単語の置換作業がブレイルスターに行わせると性格なので、これは大助かり。行末の文字溢れもレイアウトを気にすることなくそのまま行えるのは安心していられました。書式設定もできるので、中央寄せと右寄せは楽でした。一行が全て表示できるというのも、ストレスをなくしてくれましたね。
 要録の中でつまずいたのは「取穴書」の一部を参考資料として提供した部分でした(苦笑)。古典部分が自動点訳ゆえに文章がメチャクチャになって逆に編集が手間取ったり、読み下しが難しかったことです。時間が迫っているので、委員会の先生にここだけは修正を手伝ってもらいました。「取穴書」の第三章だけは点訳をしてデータ提供をするという残務があるのですけど、この体験で今は二の足を踏んでいます。

 そして予想外の追加であり最も困難を極めたのは、特別講演の第一席『皮膚感覚の不思議−触れる!安らかな心・よみがえる身体』の当日に映されるスライド資料を事前に山口先生からいただいたのですけど、当たり前ですが写真やイラスト中心なのでテキスト部分を抽出するだけでは何のことだかさっぱり伝えられなかったものへ解説を加えることでした。
 慌てて山口先生の資料を読み返し、テキスト部分から全体の流れを予測し、仕事が終わってから助手と残業して図版の配置から中身について説明してもらいながら、一緒に試行錯誤で解説文を考えました。そして後発の資料ですから期日までにホテルへ郵送せねばならないので、点字図書館へデータを送ってからは必死にレイアウトを治してもらいました。何せ普段あまり使わないブレイルスターですから、画面の切り替え方法を教えていたりして(笑い)。でも、今は笑い話ですけど緊迫した作業であり、本当にありがとうございました。
 後発の資料としてパネルディスカッションと実技の班割表もあったのですけど、200名を越える参加者だと申し込み後の移動も結構あるもので、変更履歴を電話で頼んで送ってもらわなければ表とはとてもつき合わせられないというハプニングも。ハプニングといえばエクセルのシートをキーボードから切り替える方法を実は知らず、点字図書館へ慌てて電話で問い合わせしたというのもありましたね。コントロール+ページアップもしくはページダウンでした。
 ご褒美のブルートゥースアダプタは、点字書類の編集にこれからずっと役立ってくれることでしょう。


杉山神社へのお参りとちゃんこ鍋

 大会二日目の夜、つまり8月26日の夕食が今回はセットされていませんでした。内部事情に関わる都合が大きいのですけどここは東京の夜を歩き回れるチャンスをもらったと肯定的に捉えましょう。
 それで会場がお茶の水ですから、田舎者が東京で何を食べようかと考えて両国が近いので「ちゃんこ鍋」。「この真夏に鍋料理?」と最初は非難を受けましたけど、両国を選んだのには江島杉山神社へお参りができるということも考えていました。
 杉山神社の由緒というページから一部引用させてもらうと、『本社は江島杉山[えじますぎやま]神社といい、神奈川県藤沢市江ノ島弁財天(市杵島比売命)と、鍼術の神様・杉山和一(1610〜94年)総検校[そうけんぎょう]がまつられています。杉山和一は、鍼の神様、視覚障害者の先駆者、視覚障害者に鍼・按摩を職業として与えてくれた人として尊敬されています。杉山和一は、三重県津市の出身で江戸時代初期の人です。幼くして失明し、江戸(現在の東京)に出て山瀬琢一に鍼術を学び、更に江ノ島弁天の岩屋にこもり鍼術の一つである管鍼[くだはり・かんしん]術を授かりました。その後和一は、京都に行き入江豊明にも鍼術を学び、再び江戸に戻り鍼の名人として有名となりました。この和一の名声を聞いた五代将軍徳川綱吉が、和一を「扶持検校[ふちけんぎょう]」として召し抱え、日夜自分の治療に当たらせました。綱吉は和一に、江ノ島弁天に月参りをして感謝しているのを不憫[ふびん]と思い、元禄6年(1693)5月16日に当地本所一つ目に1860坪余りの屋敷を賜い、同6月18日には弁財天像、先の屋敷内西側989坪余りに弁財天の社地を下賜しました。当地下賜の逸話に、綱吉が和一に「何かほしいものはないか」と問われ、「一つ目が欲しい」との返答に当地が撰ばれたと言います』ということで、四半世紀も東京の研修会へ通っているのに一度も江島杉山神社へのお参りをしたことがなかったので研修会の夜に多くの時間を使って出かけられるならと考えたのです。視覚障害者の偉大なる先輩だけでなく鍼灸師として尊敬すべき先輩ですから、この話を持ち出したなら晴眼者の会員も俄然乗り気となってきました。

 26日の研修が終了したなら、予約してあったタクシーへ乗り込んで移動です。ホテルから予約してもらった時に「行き先は全て江島杉山神社ですから」と会社へ伝えてもらったはずなのですけど、実際はそれぞれのタクシーで運転手さんがカーナビで検索をしていたので若干降ろしてもらう位置が異なり再集合に手間取ったということはあったのですけど、無事に全員が到着です。ホームページに書かれていたように、鳥居のところには浮き彫りになった点字付きの石礬があり、この点字は実際に指で読んている人がいました。お参りに来ているのは鍼灸師の団体様ですから、お賽銭は皆様はずまれていたようです。社殿の奥にはほこらもあり、蚊が激しく飛んでいたので急いでお参りさせてもらいました。
 お参りが済んだならJR両国駅まで徒歩での移動であり、ここではポッドキャストApple News Radio ワンボタンの声でちょうど無料で徒歩対応のiPhoneのナビアプリが紹介されていたので活躍。実はこの「二つの行事を一度にやってしまおう」というところに問題がありまして、当初調べたところではJR両国駅から江島杉山神社まで15分から20分は掛かるとの情報であり、交通費を安くしようとすれば両国駅との往復だけで一時間を要してしまうのでこれは現実的ではなく、便利さということでバスのチャーターを調べましたが時間単位のチャーターはできないので経費が高くなり、粘ってあちこち探りましたがボツにしかできませんでした。それでホテルから江島杉山神社まではタクシーで乗り合わせると納得できるくらいの料金であり、地元の人なら10分くらいの距離という情報を見つけたのでナビを使えば大丈夫だろうという結論に達したのでありました。隊列が長いので信号で止まったり東京スカイツリーを遠くからですが眺めていたりしていましたが15分程度でお店へ到着。

 ネットでの検索から花の舞 国技館前店-クーポンのホットペッパーを見つけたのですけど、ここはJRの高架下に一部位置していて駅の中にあるという印象です。しかし、都内のお店にしては巨大な敷地であり、国技館の目の前にちなんで大相撲協会観衆の本物の土俵があってその周囲も再現されていました。ついでに土俵は女人禁制という協会規則も適応されていたりして。
 もちろん「ちゃんこ鍋コース」で飲み放題の宴会をしたのですが、団体様なので土俵周囲とはさすがに行かなかったものの、個室なので思い切り騒げました。トイレ休憩の時に男は土俵に登り、記念撮影を。相撲甚句らしきものを歌ってくれる人もいて、他のお客から拍手をもらっていましたね。個人的には盲学校に土俵はあったので大きさが違わないことの方にビックリし、ムサというものを初めて触りました。仕切線は単に印があるだけで凸凹がないのも意外でした。
 予約確認の時に「冷やしちゃんこになりますが」とのことで、特製のものであまり類似品は見かけないとのことでしたから話の種に挑戦することにしました。なかなか美味しかったです。それからホテルの食事がちょっと飽きていたところだったので、野菜がたっぷり食べられたのがよかったですね。何よりも飲み放題なのに三時間コースということを知らず、思い切りの宴会の上に会員一人一人にスピーチをしてもらって、お互いのことをより知ることができたと思います。帰りに秋場はラマで暴走している組みもありましたが、ここは割愛しておきましょう。

 今回は裏話というか番外編というか、勉強にも色々な側面があり楽しみも合ってのことだということで、「修学旅行のような気分でした」と感想を寄せている人が多かったように、合宿形式での研修会は絶対に必要だと思っています。経費はかかりますが、録音のない研修時間外でしか聞けない話に本当の価値があるものであり、率直な意見交換にはたっぷりの時間が必要なものです。二年後にはまた滋賀で夏期研を担当するのですけど、その時にも研修時間外のことは大切に考えておくつもりです。