『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

鍼灸院の二度目のリニューアル、その3、ベッドを六台に

AからDのネームプレート、カーテンを閉

 前々回鍼灸院の二度目のリニューアル、その1、駐車場を拡張では駐車場拡張までのことをきっかけから法的なことや外回りでのアイデアについて報告しました。前回鍼灸院の二度目のリニューアル、その2、工夫で設備更新では、建物内部でのアイデアと改善点について報告しました。今回はずっと以前から行いたかったベッド増床について、単純に一台増やすだけではなかったことについて、報告していきます。

 助手が独立する時はそうなのですが、開業の相談を受けた時には必ずアドバイスすることがあります。それは、ベッドは一台ではなく、二台以上で開始することです。二台だと並行して治療できるので仕事が効率化されるのが最大の利点ですが、二台用意してあることでの患者側からの安心感は一台と比べものになりません。そして技術的にまだ一人ずつしか治療できないとしても、予約時間を少し重ねることにより次の方が着替えていると「ここは流行っているぞ」という第二の安心感が生まれてきます。
 私の修業時代、師匠の治療室は基本的に四台のベッドがありましたけど一番奥は電動ではなく、しかも患者の左側からしか入れない脉診には非常に不便な構造でした。また臨時にもう一台増やすことができるようにはなっていたものの、常時稼働しているのは三台ということで奇数は回しづらいという印象がありました。ところが、私が開業をしてもベッドは四台持っていたのに稼働は三台からです。一人だけで施術していた時代はベッドメイキングを後回しにできる余裕があったので重宝したのですけど、助手が入ると三台では不足ですし、助手が二人になって五台に増えても急いでの増床だったので回しづらい奇数であり、「いつかきっと偶数のベッドにしてやる!」と密かに思い続けていました。

 ただし、駐車場の台数が確保できたからと単純にカーテンレールをやり変えてベッドを増やすだけというわけには行きません。助手が入ったことで三台から五台に増やした時には建物の大きさによって救われた面がほとんどでしたが、さらに一日の来院者数を大幅に増やせるようにするのですから、今度は工夫により人の流れ方そのものから変えねばなりません。
 まず取り組んだのが、玄関での靴とスリッパの整理です。これは私のミスでもあったのですが、開業時から大きめの下駄箱は設置していたのですけどスリッパはそちらへ並べてもらえるものの、木の下駄箱なので靴の泥が付かないように気を使われるのか、みざらの前へ直接靴を脱がれるのです。一般家庭ではそのようにしますから当たり前といえば当たり前の行動なのですけど、同時に来院されている方が多いと靴が並びきれなくなります。
 そこで下駄箱は縦に二列ありましたから、靴を入れてもらう列には、シートを敷いて泥の心配をなくしました。色々と物色した結果、キッチン用具のシートが見栄えがよく、交換にもコストがかからないので採用しました。ずれないように四隅はピンで留めているのですけど、わざと分かるように頭の付いたピンを使うのは患者さんからのリクエストでした。
 そして「くつ」と「スリッパ」の看板を下駄箱に付けたのですが、「くつ」の表現は何人もの患者さんに見てもらい平仮名の方が分かりやすいということから決定しています。看板のカラーも変えてあります。変更した当初は慣れている患者さんの方が下駄箱へ靴をなかなか入れてもらえなかったのですけど、全体の流れが下駄箱を使うようになると靴とスリッパはきちんと整理されるようになりました。鍼灸院見学ツアー、スロープから下駄箱までもご覧ください。

 次に待合室ですが、今までも四人同時に腰掛けていただける椅子は用意していたのですけど、入れ替えの時間帯には既に不足していることがありました。また今後は付き添いさんも増えるでしょうから、椅子を増やさねばなりません。幸いにも壁側にはガラステーブルとマガジンラックが置いてあるだけだったので、この二つを撤去すれば椅子を増やすことには何ら問題がありませんでした。
 しかし、医療カタログに掲載されている待合室用の椅子は値段が思いっ切り高い!単純な長い椅子なのに、医療用のカテゴリーに入るだけでブランド品のように高くなるんですね。そこで副院長にサイズを確かめながら家具屋を巡ってもらうと、あっさり半値で長い椅子が見つかりました。応接用の椅子なのでふわふわしており、感触の違う椅子を選んでもらえるようにもなりました。
 単純に椅子を増やしただけでは芸がないので、これも以前からパンフレットスタンドにパンフレットが入り切らなくなっていたのでこちらも増やすことにしました。椅子を増やしてからスタンドの配達を待って設置してみると、ありゃりゃ、受付カウンターの下側まで椅子がせり出してきてしまいます。試行錯誤するとスタンドを広げなくても椅子の端っこで押さえれば問題がないことが分かりました。
 それでもまだ少し受け付けカウンターの下側に椅子の端っこが掛かってくるのですけど、これは意外な副産物をもたらしてくれました。事務側からすればちょうどいい高さのカウンターなのですが、待合室側からは低すぎるので中腰になるか少し離れた位置からでないと顔を見ながらの受け答えができなかったのですけど、このせり出した部分に腰掛けるとちょうど目線が一致するだけでなくカウンターに荷物を置きながらの受け答えが自然にできるようになったのです。誰かが旗振り役をしてシステム変更したわけでもないのに、いつの間にかこの形がスタンダードになっていますね。特に年輩の方には、楽に受付をしてもらえるようになりました。

 さて、外回りの工事は一気に変更するしかないのですけど、内部のことはエラーがでないか確認しながら一ヶ月に一つずつのペースで前述の変更をしていきました。文章だと単純明快なことなのですが、実際は患者さんの流れ方が変わるのでエラーチェックは結構な作業でした。
 けれどベッドを増やすのは一気に行わねばなりません。しかも、失敗は許されない作業です。幸いにも小児鍼専用ベッドの幅が650mmと予定しているベッドと同じ幅であったことから、頭の中のシミュレーションに続いて軽いので移動させてきて、何度も何度も配置を実際に確かめることができました。インテリア業者に手伝ってもらい、電動ベッドを全て移動させてのシミュレーションの最終確認もしています。

 今回のデザイン変更でのポイントは、大きな治療室には小児鍼専用ベッドや小さな治療室へ移動するための自由通路が取ってあったので、この自由通路をどのようにすべきかということでした。自由通路は1mと大きくありましたから、単純計算ではこのスペースを使えばもう一台ベッドを増やすことが可能です。しかし、それでは全てが埋まっていると患者さんの脇を抜けさせてもらわないと移動できないことにもなります。スタッフが多くなれば、これは大問題です。
 まず待合室との出入り口があるので、そのままベッドを増やすと一番出入り口側のベッドは少し大げさですが接触の危険性があるので、頭側へいくらか全体的にスライドさせる必要性がありました。ここは、すぐ決定です。次にベッド間のスペースを大きく確保するなら、、四つ並ぶことになるベッドのど真ん中に自由通路を少し確保するというデザインも考えてみたのですが、事務スペースのすぐ脇までベッドが来ることになるのでここの患者さんは電話や受付の時にかなりうるさいことになります。散々にデザインは書き直したのですけど、やはり出入り口の脇は自由通路を確保しなければならないという結論に至りました。
 では、どれだけ自由通路を確保すればいいのか?30cmもあれば大丈夫なのか、今までと同じ1mではベッドが入らないしと、小児鍼専用ベッドを持ってきて壁までの距離を何度も測定し、スタッフがギリギリ対面通過できる70cmという結論に至りました。すると増やすベッドのためのスペースが30cmしかないので、ベッド間の距離を狭めることしか対処法がありません。
 今度は紙の上にベッドの模型を配置して均等になるように距離を計算すると、今までベッド間の距離は1mあったものが40cmと割り出されてきます。一つの区画でベッドから仕切のカーテンまで50cmあったものが、わずか20cmになってしまいます。けれど小さな治療室はベッド間が60cmでカーテンまでが30cmですが、圧迫感はありませんでした。実際にベッドを動かしてカーテンまでの距離と寝ている側からの圧迫感を確認すると、ベッドにカーテンが触れておらず着替えからベッドへ上がるための幅があれば充分だと結論できたので、最後は前述のようにインテリア業者と実際の配置にしてみて、決断をしました。

 工事は一日半で完了しました。今までの説明でで書かれていないものとしては、頭側へ30cm全体がスライドするので、照明が暗くならないように足側の蛍光灯も30cmスライドさせました。これだけ天井を触るので、クロスも全面張り替えです。床からのコンセントは、移動距離が短いので、移設の形で対処してもらえました。カーテンレールはもちろん全て新しいものになったのですけど、出入り口のところだけは直角で固定せず丸みを持たせて自由通路の通過を少しでもスムーズにできるようにしました。今までのカーテンを利用できるように高さは同じにしてもらい、増床分のカーテンを洗い替えの分を含めて二つ追加しただけで対処できました。
 水曜日の午後の休診を利用して、一日休むだけですから電光石火での大幅リニューアルでしたね。実はこの時に、電動ベッドを二つ新しいものにしています。一つは増床分なのですが、一つはまだまだ現役なものの部品の耐久性に不安のあるものが一つあったので、この際ですから入れ替えをしたのです。新しいベッドは、二つとも小さな治療室へ入れることでこちらの違和感を防いでいます。フットスイッチを含めて、動作感がかなり異なりますからね。それで廃棄になるはずのベッドですが、運送費を負担するということで元助手の治療室へ引き取られ、今も現役で働き続けています。

 さて、これでベッドを一つ増やして合計六台になったのですけど、一番の問題はどのようにしてベッドを使い回していくかということです。ドアに近いところばかり使っていたのではシーツの汚れ方に片寄りができてしまいますし、治療室が二つに分かれているので完全な順番制というのも効率が悪いと判断せざるを得なかったのが事実です。それでベッドが五台の時には大きな治療室の1,2の次は小さな治療室の5,6と来て、大きな治療室へ戻ってきて3というのが、治療室間の移動という面も含めて一番効率的だと経験から割り出されたので、そのようにしてきました。
 ここで話が反れますけど、ベッドの名称が以前は1,2,3,5,6となっていました。これは4の数字を嫌われる方がおられたので、少しでも不快なら外してしまおうということで、ちょうど大きな治療室は三台までですから小さな治療室を5,6としていたのでした。ところが、今回は大きな治療室が四台になるので1,2,3,5はちょっとおかしい。色々と考えてアンケートまでした結果、A,B,C,D,E,Fのアルファベットにしました。いくら年輩の方でもFまでのアルファベットが読めないなんてないだろうとは思いましたけど、それでも混乱することが十分予想されましたから、インテリア業者と打ち合わせしている時にそれぞれの札をカラーリングすればというアイデアが浮かびます。「駐輪場」「くつ」「スリッパ」と特別注文の看板を日曜大工センターで副院長に作成してきてもらっていたので、これはかなりややこしい注文になりましたけど、字体も丸ゴシックを採用したA(青)、B(黄)、C(赤)、D(白)、E(黒)、F(緑)とカラフルな札が出来上がりました。そして、受付ではアルファベットと色を合わせて呼ぶことにより入ってもらうベッドを指定して、混乱を避けるようにしています。
掲載した写真は、カーテンを閉めた状態でのAからDのネームプレートです。色が信号機の配列になっていること、ちゃんと意識して作りました(笑い)。

 話を戻しまして、頭の中では充分にシミュレーションを繰り返してきたつもりですけど、やはり実際に運用して確かめなければということで、ベッドが六台になった日から試せるだけのパターンで実際に運用をしてみました。その結果ですけど、ちょっと文字だけではわかりにくいかも知れませんがA,D,E,F,B,Cの順番で運用していくのが一番効率的だと結論しました。
 E,Fは小さな治療室の方なので、この二つは以前のパターンでもそうであったように連続運用でないと効率が悪いことはすぐ分かりました。大きな治療室ですけど治療用ワゴンが二つなので、三台の時にはワゴンの移動距離が発生していましたから、できればA,BとC,Dのそれぞれ専用という形で用いたいとも思っていたので、最初にA,Dとすれば第一関門はクリアです。続いてE,Fとして第二関門もクリアです。その次にはA,Dと同じパターンでB,Cとすれば治療用ワゴンの移動距離が短くなり第三関門もクリアです。さらに最初に戻ってA,Dに次はなるのですから、B,Cから少しだけ治療用ワゴンを移動すればいいことになり第四関門までクリアできました。
 唯一B,Cが連続で標治法をしている時にだけ、狭くなったベッド間でスタッフ同士が接触してしまう可能性があるのですけど、ここだけはどうしてもクリアできませんでした。しかし、毎回必ず発生することではありませんし、患者さん同士が接触することは全くないので、大きな問題ではないでしょう。

 2013年の忘年会はベッドが増床できたのでお祝いを兼ねて行いましたから、午前中を手伝ってもらっている素人の二人のパートさんも招待していました。そしたらパートさんから、「ベッドが五台だったということが今からでは考えられないね」という発言がでてきます。偶数での運用はとても効率がいいのであり、頭の中の計算もスッキリできるので精神面としても効率がよくなりました。
 そしてベッドが一台増えるということは一日のキャパシティが大幅に向上することにつながるので、特に朝一番と会社帰りの夜には重宝がられています。現時点ではスタッフがまだ足りていないので六台の連続フル稼働を経験できていないのですけど、電子カルテの記入を半分助手に変わってもらえば十分余裕のあることだと想像しています。この点は、また追記をします。

 私が開業準備をしている時、まだまだ設備面での知識が乏しく建物はほぼ完成していましたが、ベッドの配置などは決まっていませんでした。そこで「大きな治療室に六台のベッドを入れる」などと、これはもちろん現実離れをした理想論だけだったのですけど無謀なアイデアを出していました。その数に25年でやっと追いつきました。正確には小児鍼専用ベッドがあるので七台になったわけですけど、よくぞ追いついたものだと我ながら思っています。「夢はでっかく持て」とはどこかの言葉ですけど、身分相応ではありながらも夢はでっかく持ってみるものですね。
 一人だけではこれだけの数のベッドを回しきれないので、副院長や助手に支えられての「にき鍼灸院」であり、その他の人々の協力が合っての鍼灸院です。周囲の人々に感謝を忘れず、これからもまずは患者さんのために、そして地域のため・鍼灸師育成のため・鍼灸業界のため、また家族のために頑張っていく所存です。