『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

第21回漢方鍼医会夏期学術研修会、愛知大会雑感

 第20回漢方鍼医会夏期学術研修会愛知大会が、2016年8月28日(日曜日)29日(月曜日)に名古屋で開催されましたので、今回のブログはその雑感です。

 私は漢方鍼医会発足時から参加しており、夏季研も欠席は一度もありません。既に講師側としての参加回数の方が遙かに多く、講師側へ回ってからは何かと運営に毎回関わることになってしまいます。今回は二年前に滋賀大会を終えたばかりなので一番運営からは遠ざかれる「のんびり大会」にさせてもらおうと思っていたのですが、どっこい準主催者の気分での大会にまたまたなりました。
 例年だと講師依頼は2月に確認されるのですけど、それまでに年末に一度打診があって確認と委嘱状の手渡しか郵送ということになるのですが、いきなり「講師をお願いします」のメールが飛び込んできて驚きました。それも実行委員長の名前が代表の高橋先生ではなく、神戸の鍼灸学校在学中に滋賀漢方鍼医会で入会をしてその後に愛知漢方鍼医会への転出を私が強く勧めた森野先生の名前になっていたのは、もっと驚きました。結果的には高橋先生と森野先生のタッグで準備されたことが今大会を乗り切る大きな力となったのですけど、最初は「実行委員長の名前ではなく事務局長ではどうか?」と進言したりと、全国区では無名の森野先生には少々荷が重たいのではと心配していました(森野先生ごめんなさい)。ところが、講師陣も固まってそろそろ動き出そうかという頃に追悼、渡部恵子先生で報告している悲しい出来事がありました。
 こちらから見ていると元々から渡部先生の病状があったので遅れていた取り組みが、ぱったりと情報が出てこなくなってしまいましたからまた不安になってきました。時々森野先生から個人メールで運営のことの相談が入り、点字資料については今回も私が担当するということで少し横から手伝う形でこのあたりから深入りしてくることになります。

 4月半ばになってパネルディスカッションの中身についての相談を受けるようになり、そして滋賀から出演をという話になってきたのですが、当初私ではなく岸田先生にパネラーをという話でした。ところがいつの間にか司会者を私にということになって、出演者と司会者が同じ地方組織からではまずいだろうということで話がぼやけていたのですけど、第一回の講師合宿で実技が終了した後に打ち合わせをということで集められたのですが、既に司会者に決定済みだと聞いてまた驚かされました。ですからやり返したわけではないのですけど、ここで森野先生もパネラーとして出演することに強引に決定をさせてもらいました。これで実技講師へ立つことはなくても実行委員長という名前が冴えるようになり、うまく収まったという感じです。それにしても勝手にもう一人の司会者に決定されてしまった福島先生、文句も言わずによく最後までついてきてもらったものです。
 それから今回のパネルディスカッションのやり方、つまり一人目のパネラーが発表をしたならグループ討議になり質疑はせず二人目・三人目と続いて、その後に全体討議という方式はこの打ち合わせの時に思いついて、そのまま持ち込んだものです。終わってしまえば議論したかったものを掘り下げられてよかったのですけど、よくぞ無茶な方式を思いつきだけで押し切ったものです。

 講師合宿での実技のすりあわせなど細かなところはいくつもあるのですけど、今回徹底しようということになったのは営気の手法の時に「衛気を傷つけないようにまず払ってから手法を行う」ことでした。衛気と営気の軽擦は単純にスピードの変化で重さまでコントロールされますからこれだけでもかなり違いが出せるのですけど、さらに一度取穴をした段階で経絡を垂直に切って衛気を払うことが手法を効果的にするということです。軽擦をする前に垂直に切っておくのか直前なのかどちらも行うのか、まだ決着はついていないのですけど、直前で行うのは効果を高めると確認できたので今回徹底しようということになりました。この「衛気を傷つけないようにまず払ってから」というのは難経に書かれていることであり大阪大会で既に実技内容へ取り込まれていたことなのですけど、全体で徹底しようとすれば何回か繰り返さないと浸透しないものなのですね、やっぱり。
 そういう点でいえば前回の滋賀大会で打ち出した臨床的自然体についても、徹底するにはまだ何回か必要なようですね。特に研究部に参加されていた先生方は自分のスタイルが確立しているので、姿勢に気をつけている人と全く気づいててない人の差が激しかったです。入門部はまだこれから姿勢を直していく段階ですから仕方ないとして、研修部よりも研究部の方が姿勢が悪いように感じました。
 大阪大会で打ち上げ花日々のように派手なデビューをした邪論について、三年経過してようやくしょうかのできる人が出てきたということで全体で取り組んだのですけど、結果はまだまだこれからというのが正直なところでしょう。気血津液論でさえ完全には足並みが整っておらず標治法まで含めれば一人が一つの治療法則を持っているような状態ですから、邪論に至っては一歩進んだ人のやり方をまだの人が見学させてもらっていたというのが大多数だったと思います。それでも大阪大会の何をやっていたのかほぼ分からなかったという状況より、数歩前進しています。少なくとも古典に書かれているものは気血津液論より遙かに邪論のやり方が多いので、古典に忠実に臨床をするには邪論は外せないという合意がなされたのは大きいことです。
 伝統鍼灸学会へ参画している経絡治療の研究会で邪ろんんが全く取り上げられてないという話ではないのですけど、邪論の研修会は邪論のみであり今までの我々もそうだったのですが気血津液論のみの研修会の方が遙かに多く、邪論と気血津液論の両方を取り上げているのは漢方鍼医会くらいじゃないでしょうか?独自路線といわれてしまいそうなところがまた出てきましたけど、要するに効果が出るので邪論も取り入れようということになったのでありすべては治療のためです。決して治療家の趣味趣向で研究をしているのではありませんから、あしからず。

 さて当日なのですが、台風10号が接近中ということで日程変更の決定は二日目の朝でも遅くないと思っていたのですけど、二日目の日程短縮が開会式の前に発表されてしまいました。つまり二日目はパネルディスカッションのみということになり、責任が重くのしかかってきました。やり返してくれましたね。
 一日目に実技が三時限目まで組んであったことが幸いし、二時限目には気血津液論で三時限目には邪論でとハッキリ分けて小里方式となったのは研究部にとっては非常に勉強になりました。今までは邪論を租借しようと気血津液論と並行しながら考えてきていたのですけど、ハッキリ時間で分けてしまうというやり方は今後に取り入れていきたいと思いました。
 パネルディスカッションについては前述の通りで、全体討議に入ったなら一番緊張をしていたのは司会者の方でした。問題点をあちこち出してもらったのですけど、山登りをするのに少し方式が違っているだけで決して真反対の方向から登山をやり直しているわけではなく、頻繁に交代することはあまりよくない痿かも知れませんけど方式はハイツでもお互いが見られるものであり交差もできるものです。数年後の発展がとても楽しみになってきました。

付録
 その1は、自動点訳ソフトの精度が今回の担当でさらに向上させられました。点字図書館も以前のような団体利用だとわかっていても個人からの依頼のようにして経費をほとんどかけずにというわけにはいかず、きっちり制度通りの請求がされるようになったので数少ない点字利用者のためだけに多額の追加印刷費をというわけにはいかなくなりました。それでも点字使用者にとっては貴重な資料となりますから今回からは要録に関してはデータ提供のみとし、班分け表だけプリントアウトしたものを当日に配布することで極力経費を抑えています(それでも25000円くらいかかっていますが)。
 専門分野の点訳ですから基本は自分たちで行って校正作業をしてもらい、本としてのデザインを整えてもらうというのが点字図書館へお願いすることなのですけど、やはり単語のチェックも行ってもらうことにはなるので基本データがどれだけきれいに仕上がっているかが問題になります。それで自動点訳ソフトのユーザ辞書は既に10年くらい前に一応の完成としてその後放置してありましたから、昨年にブックセンスという読み上げ気機のユーザ辞書を必要に迫られてやり直したのでこちらからの再コンバートを試みました。元々ブックセンスのユーザ辞書は、自動点訳ソフトのものをコンバートして短時間で作成できたものでした。結果的には手入力で追加五句を修正していくしかなかったのではありますけど、これだけでも自分で驚くほど精度が向上しました。そして自分で忘れていたのですが、二年前に「取穴書」の点訳版を作成したときにも自動点訳ソフトのユーザ辞書をメンテナンスしており、二段階の作業をしたことで現在の漢方鍼医会で流通している文章であれば古医書や固有名詞を除いてはほとんどがきれいに出力できるレベルとなりました。
 校正作業も点字エディタの“ブレイルスター”を使っているのですけど、ブレイルメモ32をピンディスプレイとして連動させることにより音声と点字の両方で確認作業ができますから、効率が格段に向上していました。数年前からは連動をブルートゥース経由とさせたので、煩わしいケーブルの引き回しからも解放されて、さらに楽になっています。そして今回は複数のパソコンでもブルートゥースを設定したので、たとえば息子の空手練習で付き添っていた体育館の外出先でも作業の継続ができたので、今までにない短時間でデータが仕上がりました。
 その2は、懇親会でビールを持って適当に歩いていたなら中和鍼灸の3年生だという学生に偶然に出会い、助手の話をしていました。真剣に勉強をしたい学生には受け入れ先がなく、助手を求めている側には学生へ情報が届かないというミスマッチ状態が最近ずっと続いているので、女性でもあることからすぐ声をかけておきました。就職斡旋にかなり苦労しているというのは鍼灸学校教員をしている会員も同じことらしく、こちらも学生との話を横で聞いていた会員からすぐ紹介してもらえました。今の「にき鍼灸院」の規模では、また午前中にパートさんを入れて清掃業務を切り離し事務作業も極力軽減させてもまだ常勤が一人だけではちょっと苦しい状況なので、既卒者でなるべく早くに勤務できる人を紹介してもらえるようにと話をしておきました。
 漢方鍼医会の治療に魅力を感じて勉強をしているのに、そして将来ずっと鍼灸で生計を立てたいと希望して助手希望でありながらそのような受け入れ先が見つからず、やむを得ず鍼灸接骨院で経絡治療とは無縁の仕事をするというのはなんとももったいない話です。手も崩れてしまえば、そのうちに意欲さえなくしかねません。まぁ自分で食いつきまくってどこかの助手へ入れてもらえるまで粘り続ける根性を見せて欲しいというのもありますけど、私のように手引きをしていただける先生がおられたというのはやはりラッキーだったのでしょうね。
 その3はおまけの話です。後で録音が回ってきてからわかったことなのですけど、今回はライン録音ができなかったので生録のみであり、パネルディスカッションはICレコーダーが司会者席におかれてあったのですけど、実質的に全盲の私はそのことを知りませんでした。ひそひそ話までばっちり収録されている状態であり、タイムキーパーとの時間確認やフロアへの直接指名をどうしようかなども収録されてしまっていました。司会者が一番緊張をする作りだったので余計なおしゃべりをする余裕がありませんでしたから変な会話も収録されておらずよかったのですけど、一通り聞き終えるまでもう一つのスリルを味わってしまいました。滋賀漢方鍼医会の会員からも、「違う意味でもう一度楽しませてもらいました」とコメントをもらってしまいました(笑い)。