2016年もまもなく終わりということで、今年もいろいろなことはあったのですけど鍼灸業界全体でいえばWFAS2016が開催されて、意識改革のスタートピストルが打ち鳴らされたことが一番大きかったのではないでしょうか。
はっきり言って日本の鍼灸師の立場というか意識レベルは、今までは鍼灸師が国家資格を得て生活を支えるためのものという感じだったでしょう。しかし、WFAS2016を経験して「既に世界の中の鍼灸」になっているということに気づかされたと思います。少なくとも学習意欲を持ち続けている心ある鍼灸師には、何らかの形で響くものがあったはずです。
話が少し飛んでしまいますけど、日本伝統鍼灸学会はいわゆる経絡治療を実践している研修会が参集して構成している学会であり、中医学をベースとした研修会もありますけど古典医書に基づいた鍼灸を行っている集まりです。鍼灸という技術はその土地の風土や習慣に応じて柔軟にその形態を変えながら健康の回復・維持・増進に役立てられる技術であり、様々な方式が考案され実際に効果がありますから、経絡治療という枠組みの中だけでも様々な技術が存在してきたので日本伝統鍼灸学会という組織が必要になりました。
もう少し話の枝葉が広がってしまいますけど、日本の鍼灸は視覚障害者が存在することによって発展してきた事実があります。江戸時代の全盲鍼灸師であった杉山和一(後に検校)により考案された管鍼術がそれであり、世界から見たときに日本鍼灸の第一の特徴は管鍼術なのです。管鍼術を用いることで痛みの少ない切皮が可能となり、マイルドな刺激による治療が実現できることが日本鍼灸の印象でしょう。また視覚障害者が自立できる職業として医療関連のものが認められているということは、世界的にも珍しいことであり、触覚を主体とする技術研鑽で大きな功績を先輩たちは残してきてくれました。
ということで日本伝統鍼灸学会の中に、広報部の一部門として「視覚障害者のための情報提供委員会」というものが存在しています。文字通り視覚障害者のために点薬などをして資料を提供するために設置された連絡会議であり、各研修会の連絡代表者が集合をして会議を持っているというのはこの委員会だけのようです。前任者の体調不良から今年度より漢方鍼医会の連絡代表者を命じられました。やっとですが話がここで一つに合流して、本題へ入っていきます。
命じられて会議へ参加するのはいいですが、実はそれまでこのような委員会が存在しているということすら知りませんでした。というより、前任者は会議内容や開催についての報告を全くしていなかったので、活動実態を把握するところから始まりました。
7月の会議ではWFASで発表される実技セッションについての講演の時間もありましたけど、WFASについては実行委員会の方で資料の準備をするという話らしく委員会としての今年度の活動そのものはないということでした。ですから、会議の後半は懇親会です。研修会の枠組みを超えて話ができたということで十分に有意義な時間ではあったものの、遠い滋賀県から出かけてきた私にとっては「これだけで終わってしまうの?」というところです。それにメーリングリストが存在していれば、わざわざ集合するほどの会議でもなかったというのも正直な感想です。
けれど東洋はり医学会の若い先生から積極的な質問攻めに遭い、既に若い先生たちには過去の漢方鍼医会が独立に至った経過は関係なくなっていることがよくわかりましたし、ほかの研修会からでも学べるのであれば実技を学びたいという意欲が伝わってきました。漢方鍼医会でも外来講師としてほかの研修会の先生をお呼びして可能であれば実技を見せていただいたり体験してはいるのですけど、「この小さな委員会で視覚障害者という枠組みならお互いに実技交流ができるのではないか」と思いついたのが一番の収穫でした。そして帰り際には、いきなり委員長へ提案もしてきています。
この下側に貼り付けた資料は、第二回目の会議の前に私が漢方鍼医会での情報提供の状況について説明したものであり、今後の提案まで踏み込んだものを一部修正をしたものです。結構長いものになりましたので、点字資料作成のことが半分ですからここは読んでいただけるなら程度でかまいません。
それで第二回目の会議で、まず委員会らしい仕事としては日本伝統鍼灸学会のホームページがスクリーンリーダーで読み上げできないという不具合が生じているので、改善提案を出すことになりました。制作テンプレートがアクセシビリティに不具合を生じさせるところまではわかったのですけど根本的な対処法が見つからず、現時点でもなんとか読み上げができるフリーのスクリーンリーダーである「NVDAをお使いください」とwebページ上で告知することにより、とりあえずの問題回避をしてもらいました。
また情報をスムーズにやりとりするためにメーリングリストの設置が可決され、2017年から運用開始をすることも決定しています。これで情報の偏りがなくなるでしょうし、資料や提案の事前配布により会議が効率化できます。下の文章を書いてあるのに事前に各研修会へ配布されなかったのですから、昔ながらの会議だったということがわかりますよね。もう、そんなことはなくなります。ここまでは私の提案。
「杉山会館で会議をしているのでありWFASで日本鍼灸のことを世界へ発信したのだから、日本伝統鍼灸学会の定義の五つ目に管鍼術のことを追加すれば」という提案がなされ、全会一致で賛成となり委員会の名前で理事会で協議をしてもらうことにもなりました。
さぁ正式な会議はここまでだったのですが、実技交流の提案があるという話にもなりました。ここが拍子抜けするほど全員が乗り気の話になったこと、本当に驚きでした。経絡治療を創始した先輩たちの時代は相互交流が盛んだったと聞いていますが、その後に交流が疎遠になったため独自路線へそれぞれが走ったのであり、二代目や三代目の先輩が率いていた時代なら異種格闘技戦の申し合わせでもしない限りは交流など門前払いだったでしょう。それが「ルールは必要だが是非ともやろう」との声です。
視覚障害者の鍼灸専門家が減少しているという危機感もあったでしょうが、WFAS2016の影響が非常に大きいと私は感じました。「既に世界の鍼灸」になっているのですから、経絡治療は元々小さな土俵だったものを奪い合っているのではなく団結して土俵そのものを大きくしなければならないという共通認識が、まず芽生えたと思います。
さらに請願者の養成学校で使われている新版東洋医学概論の音声デイジーをいただいたときに、「この教科書は脉診をするときに中指を当てるあの橈骨の突起のことをまだ橈骨形状突起と間違った使い方をしている」と話したなら、東洋はり医学会でも間違いに気づいているという反応でした。「でもWFASでは橈骨形状突起と呼んでおられましたよ」と指摘すると、「適切な呼び方の統一見解が出ていないから従来の使い方をそのままにしている」ということでしたが、間違っているとわかっているのにそのままにしている方がもっとおかしい。では、この委員会は広報部の一部でもあることから適切な名称を議論し伝統鍼灸学会のステージ上で提案をしていこうではないか、とも話が展開しました。あの突起は腕橈骨津橈骨筋が付着をしていて前腕を屈するときに引っ張られるので隆起しているだけであり、解剖学的な意味がないので名称がないのです。そこで漢方鍼医会では便宜上「橈骨下端の骨隆起」と呼んでいます。
実際には学術部の査読があったりするので抜き打ちで事実の暴露と提案というサプライズはできないものの、一つの研修会が提案しても古くからの慣習はなかなか変えられるものではありませんが複数の研修会からの共同提案ということになれば認識を変えるしかないのであり、「医道の日本」へも延長戦で報告すれば日本の鍼灸業界へ一つくさびを打ち込めることにもなるでしょう。実技交流で脉診の指の当て方にも統一した提案ができれば、もっとすごいことになります。まぁそこまで行けば学術部の方へ話が移るのかもしれませんけど、手柄を横取りされないようにメーリングリストで記録を残すことの対策も考えてあります。
話がまとまったようなまとまっていないような感じになりましたけど、来年に向けて仕込みを着々と進めているということでした。ここから下側は、第二回目の会議の前に提出して置いた資料です。
漢方鍼医会におけるデータ提供の現状報告
漢方鍼医会は平成5年に発足しているのですが、当時を振り返ればまだインターネットはなくパソコンもまだまだ高価であり、研修会での資料制作はもっぱら日本語ワープロ専用機という時代でした。録音もカセットテープの時代であり、高速ダビング機が存在していましたから複製は簡単になっていましたけど、郵送から保管と整理は大変でした。今はスマートフォンのようにどこでもネット接続であり、音声資料もデイジーだけでなく多種多様なものが扱えるようになりました。そこで漢方鍼医会での視覚障害者も含めた情報提供についてまとめてみました。
1.墨字資料は速やかに
「伝統鍼灸」雑誌は発行と同時にワードファイルをいただけましたが、全く同じような取り組みをしています。学会誌「漢方鍼医」が年二回発行されますが、発行と同時に地方組織へは一枚ずつテキストデータを収録したCD-Rが配布されます。これを地方組織ではそれぞれが持っているメーリングリストで、テキストデータのみですからサイズが小さいので添付ファイルとして再配布しています。原則として地方組織代表は理事会へ参画しているので、理事会メーリングリストで配布し、これに該当しない本部のみの会員や会友へは一括して配布するだけでいいと提案中です。
「新版漢方鍼医基礎講座」と「要穴の臨床取穴法」という20周年記念大会に合わせて発行をした現在の教科書は、どちらもテキストデータだけでなく点字版も発行をしています。「新版漢方鍼医基礎講座」は、著作権法の定めに従いサピエにも点字データがあります。しかし、「要穴の臨床取穴法」はWHO標準経穴の部位と取り方を許諾を得て掲載しているので、サピエには登録していません(出版社を通して著作権料を支払っている書籍ですから転載ができないのです)。デイジー版は要望もなかったので、どちらも制作していません。
月例会前には抄録を公開することになっているのですが、学術部がとりまとめて毎月1日に会員専用メーリングリストで配布をしています。テキストファイルでない場合、ワードはそのまま流しますがPDFはテキスト変換してもう一つ流してもらいます。外来講師で画像からのPDFを持ち込まれた場合、これはなんともしがたいですね。
ちなみにメーリングリストは登録状況から厳重に管理している会員専用と、外部の方にも情報提供できる一般用の二つを本部では設置しており、地方組織も同じように運営されているところがほとんどです。レンタルサーバにはメーリングリストを作成する機能が通常サービスに含まれているので、この委員会でも日本伝統鍼灸学会のホームページに連動した公式のものが作成できるだろうと想像します。
2.点字と音声の資料提供について
視覚障害者の会員数割合と需要、そして経費面から現在はどちらも月例会では特別なサービスをしていません。前述のようにメーリングリストで資料を事前配布することにより、十分に要求が満たされています。定期総会における冊子印刷も、経費と資源節約の意味もあり今は印刷物をパスして、晴眼者も含めてデータ提供のみとなりました。
しかし、夏期学術研修会という一泊二日の大会をほぼ毎年開催しており、このときには冊子の印刷と同時に一部を点訳しています。印刷資料が実行委員会側で仕上がった段階で配布責任者が受け取り、できる点訳作業から取りかかって資料郵送に合わせてメールでデータ配布を同時に行えるようにしています。点訳の流れについては、後述します。
今回WFAS2016が開催されたのですけど、郵送があまりに大変ということでパスワードをつけてのホームページ閲覧でそこから抄録を事前に入手することができていました。そしてこのPDFがすべて画像だったため、障害者サポートデスクへ要望を出したところ事務局へすぐ掛け合ってくれてワードファイルの提供を受けることができ、英日混在の抄録でしたから日本語のみのものはないかと再び要望をしたなら日本語のみのものを再送付してもらえました。あれだけの大会でしたから、事前に抄録へ目が通せておけたことは大きなアドバンテージとなりました。
毎年の伝統鍼灸学会においても、印刷資料は実行委員会でテキストファイルもしくはワードファイルを自分たちで製作しているはずなので、この委員会の名前でできあがった段階に提供を受ければいいと思います。これを印刷物の郵送時期に合わせて各研修会の責任者へ添付ファイルで配布すれば、大会前に目が通せるようになります。印刷物が届いてから点字を打ち込んでいると、どうしても大会当日の配布くらいにしかならないですからね。
それからちょっと話がそれますけど、音声資料という点では研修会の講義をICレコーダーで収録し、ホームページの空きスペースを使って配布するという方法を漢方鍼医会では採用しています。配布用ページの作成はせず、データを直接ダウンロードさせる方法があります。ランダムな文字列にしておきこれを会員専用メーリングリストでのみ告知すれば、外部から不正に入手されてしまう心肺がありません。データ配布ですから郵送の手間がなく、会員も好きなときに入手ができ保管も楽になります。ホームページの空きスペースを活用するのが過去データも残せてダウンロード速度も速い上に経費的にも一番安上がりだと思われますけど、ホームページ管理の知識がなくてもドロップボックスなどデータ転送サービスを使うと、同じようなサービスができるようになります。まぁ資料もデータも一度公開したものは必ずコピーをされるのであり、デジタルデータになると余計にそれくらいの覚悟は必要でしょうけどね。
3.点訳について
確かに漢方鍼医会が発足した20数年前は中医学が流入してきた頃で言葉が分かりづらく、大きい資料だと一ヶ月前に小さな資料でも二週間前に提供を受けて手分けして点訳を手打ちでしていました。この頃は、どうしても点字資料が必要だという会員が多くいました。まだDOSでBASEという点字エディタが主流で、高価なくせに音質が機械的な音声ボードを使っていましたね。それでも点字の打ち直しや後からの修正ができるということで、点字エディタが手元に来たときにはピンディスプレイはなく音声のみで頑張って操作せねばならないというのに、うれしくて仕方なかったことを覚えています。つまり、点字資料は最初から視覚障害者自らで用意するというスタイルでした。
Windows98の時代になると音声ボードが不要となり、ノートパソコンでいろいろな作業ができるようになり、フリーの自動点訳ソフトというのも配布されるようになりました。しかし、ノートパソコン一つで何もかもできるようになってくると自分で墨字を調べられるようになりましたし、電子メールの便利さから墨字(普通文字)を直接書くようになると、まず点字で書いていた研修会の資料を墨字で書いた方が晴眼者・視覚障害者のどちらにも便利になり、点字資料への需要が急速に落ちていったのでありました。おそらく現在でも点字データよりもテキストデータの方が需要は高いと思われますし、点字用紙にプリントアウトされた資料は会場以外では求められていないと思います。それでも点字を扱える視覚障害者そのものが減少している上に、鍼灸のみで生計を立てている鍼灸師も若い世代には新しく出現してこないというのが実情ですが、点字文かを守る意味でも勉学のためにも少数派となっても情報提供の意義は大きいと感じています。
現在の漢方鍼医会で行っている、視覚障害者向け資料提供の具体的な方法です。点訳に必要なものは元原稿のテキストファイルです。ワードファイルでもテキストへの変換はとても簡単です。まず点訳すべき箇所のみをピックアップし、前後を切り落としてしまいます。それを変な箇所で改行が入っていないかと先頭に空白スペースがあるかをチェックし、きれいなテキストファイルに整えます。これを自動点訳ソフトで変換すれば、点字ファイルはすぐ完成してしまいます。問題は専門用語をきれいに点訳してくれるユーザ辞書を持っているかであり、何度か大規模にメンテナンスをしているので個人的には満足できるベルの「イブキテン」用のユーザ辞書を持っています。
次は自動点訳なのでケアレスミスはつきものとなりますから、点字エディタとピンディスプレイを同期させ、音声と触読で確認しながら修正をします。これで一応の点訳作業は完了であり、元原稿さえあれば視覚障害者が自力でできる作業です。私はブレイルスタートブレイルメモ32をブルートゥースで接続しているので、ブレイルスターを起動するだけでブレイルメモが自動的に外部ディスプレイとして連動するようになっています。つまり、コードを引き回す煩わしさがなく自動点訳されたファイルをブレイルスターで開けばブレイルメモのピンディスプレイですぐ読めるようになり、編集はどちらからでもできるようになります。音声が連動してくれるので主にブレイルメモ側から操作することが多いのですけど、センタリングや右寄せなどレイアウトはブレイルスターに任せた方が楽ですし自動目次作成などもできます。
問題はここからで、ピンディスプレイで確認しているといいながらも全体像が分からないので、実際にプリントアウトするとおかしなことになっているケースが時々あります。そこでボランティアに校正支援をお願いすることになるのですけど、しばらく前までは持ち込んだファイルなのでパーソナル扱いとして無料もしくはきわめて少額の負担で目をつぶってくれていたのですが、点字図書館も昨今の緊縮財政から運用の厳格化が求められているとのことで、研修会の名前が入っていると団体利用の正式料金を請求されます。今年の夏期学術研修会の資料であれば、挨拶や実施要綱・プログラム・抄録・基礎資料と70ページくらいのものでしたが二万円必要でした(ページ数ではなく利用料金だとは思われます)。さらにプリントアウトもパーソナルだと点字用紙の代金のみですが、団体利用だと高くなってしまうのでサッシにはせずデータのみを配布し、必要であればパーソナルとして居住地の点字図書館から各自でプリントアウトしてくれるようにということにしました。
実技の班分け表については校正支援を受けないということで、ここだけは昔からのつきあいですから目をつぶってもらいパーソナルということで要し代金のみで押さえました。けれど次の大会実行委員会には、これくらいの予算確保はしてくれるように伝えてあります。そして需要と利便性から近い将来には冊子の点訳は終了し、実技の班分け表のみプリントアウトして会場で配布するだけと予告しています。
ということで、時代的にもスピード的にも経費的にも学会の資料をボランティアへ全面的に頼るというのは、もう古すぎると思われます。最もコストパフォーマンスが高いのは、前述のように実行委員会からデータをもらって事前配布することであり、もし会場で点字資料をというのであればプログラムと最低必要とされる部分のみを自力で点訳し、パーソナルでプリントアウトしたものを配布するという形式でしょうか?音声でないとどうしても閲覧できないという人がいたなら、これはデータをパソコンで読み上げさせて録音し、それを聞いてもらうというのがスピード的にも経費的にも現実だと思われます(最近のデジタル製品の音声マニュアルはこの形式です)。
4.終わりに
先ほどの項目で、「それでも点字を扱える視覚障害者そのものが減少している上に、鍼灸のみで生計を立てている鍼灸師も若い世代には新しく出現してこないというのが実情ですが、点字文かを守る意味でも勉学のためにも少数派となっても情報提供の意義は大きいと感じています」と書きました。しかし、点字や音声データを提供するのみが視覚障害者への情報提供でしょうか?それだけを任務とするのであれば、メーリングリストを作成して常に同じ情報が入ってくるようにするだけで点字ファイル作成も配布も可能です(漢方鍼医会で発行してきた書籍はメーリングリスト上で添付ファイルをお互いに書き足す形で作成してきました)。また会話による会議もスカイプなどを使えばインターネットを介して動じ通話が無料でできる時代です。WFAS2016を経験し世界の中での鍼灸を意識せねばならないと体感した今では、この委員会へ時間をさいて集合する意味を新たに持たねばならないと思います。
まずは情報提供委員会というくらいですから、各研修会で取り組んでいる視覚障害者へのサービス実態と工夫について、交通アクセスや実技なども含めて意見交換すればと思います。その中から気づいていなかった工夫から、前へ進めるものがすぐ見えてくると思います。
そして、少し話が飛躍してしまいますけどこの委員会が存続する意義は、点字や音声資料を提供するにとどまらず若い世代に鍼灸のみで十分に生計が維持でき、視覚障害を逆に指先の鋭い感覚を得るための武器にすれば最先端の医療を開拓できる立場にあることを伝えていくということではないでしょうか?昭和の時代にはまだ盲学校の学生も多くバブル経済の余力で安易に自宅開業してもそこそこの腕前があれば地域に定着できたのであり、病院勤務へもまだまだ潜り込めたということで学生にも教員にも危機感が薄かったでしょう。しかし、現代は晴眼者が増えただけでなく医療費削減の大波が押し寄せていて、「医道の日本」を読んでいても寂しくなる内容が多くなっています。このような状況下で視覚障害者鍼灸師の存在意義を浮かび上がらせるためには、技術の向上以外にあり得ません。さらに若い世代に経絡治療を学んでもらう土壌作りも、先達たる我々がやらねばならない仕事だと思います。
高い経費を支払って参加したWFAS2016で数々の実技セッションは繰り広げられましたけど、手でそれらを感じられなかったので視覚障害者の私はどれだけ理解できたのかよく分かりません。小さな委員会だからこそ、お互いの研修会をけなさないようなルールがまず必要ではありますが、視覚障害者同士ということで枠組みを一つ踏み越えて実技交流ができれば伝統鍼灸学会へ参加していく意義がさらに深まりますし視覚障害者を経絡治療の道へ誘う方法をもっと具体的に検討できるのではないでしょうか。
ここからは完全に個人の意見です。実技交流が実現できたらの話ではありますけど、この委員会の取り組みを伝統鍼灸学会の学術大会で報告し、日本の鍼灸技術向上のために研修会の垣根を少しずつ踏み越えていける先駆けになるのではと夢を見ています。全日本鍼灸学会は西洋医学ベースのもので90%は足並みがそろっているでしょうから、伝統鍼灸学会こそ狭い土俵の上で声を張り上げ合っているようなことはせず実技交流を積極的に行うべきではないかと常々感じていました。