『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

伝統鍼灸学会50周年記念誌、点訳作業の中間報告

現在、日本伝統鍼灸学会の50周年記念誌を自分たちで点訳作業している真っ最中です。記念誌の概要を聞いたときから「この鍼灸の近代史は絶対に視覚障害者が読める形でも記録に残さねば」という思いから、チームメンバーを集めて作業をしています。その途中経過報告です。作業手順の報告であり、どなたかの参考になればとこのような記録も残しました。

まずは前口上となるのですが、興味がなければこのセクションは飛ばしてください。
 2022年度は日本伝統鍼灸学会が50周年ということで、covid-19のパンデミックからリアル開催ができなかった学術大会も三年ぶりに開催されました。covid-19の影響は地球レベルで人の交流や経済構造へ大打撃となり、鍼灸業界も大きな影響を受けて特に研修会活動は停止せざるを得なくなり、若い鍼灸師の実技レベルの低下が残念なのですけどここから巻き返すのがベテランの役目になります。私ももうそんな年令になりました。
 伝統鍼灸学会の中に「視覚障害者のための情報提供委員会」というのがあるのですけど、文字通り参加者の中で少数派の視覚障害者にもきちんと情報を伝達できるようにと設置されている広報部の小委員会です。今までの主な活動としては、学術大会で点字プログラムを配布することと会場内外のガイドヘルパーの手配やその助言、学会誌のテキストデータを素早く配布していくことでした。年に二度の連絡会議が開催されてきたのですけど、研修会の枠組みを超えての自由な時間も持てる集まりなのですから実技交流をと、触れることで理解する視覚障害者の特徴を活かすべきと座学から実技にこの数年間で集まりの中身が変化しました。また広報部に位置づけられているのですから、少しでも伝統鍼灸の分野に目を向けてもらうためにyoutubeへの動画投稿もするようになりました。カメラ操作は見える人に手伝ってもらわねばならないのですけど、企画も出演も視覚障害者で行っています。これも時代の流れです。委員会のホームページも、わずかですが作成してあります。
 私が年齢的に二代目の委員長となり、要望の多かった学会誌をサピエにアップしていくことも、滋賀県点字図書館に協力してもらいテキストデイジーの形式で実現されるようになりました。貴重な記録は共有できる形で残しておくことが大切であり、30周年のときに学会誌をPDFに記録し直したCDがはっこうされてエクセルから検索できる機能もあり、相当に活用してきました。

 それで50周年記念誌だと半世紀の鍼灸の近代史となるはずなので、どのように編集されていくのか注目していたなら800ページくらいになると聞いて、これは大変です。しかも、付属するDVDは動画や録音が入っていて中身が一致していないらしい。点字図書館へ問い合わせてみるとページ数に驚かれ、医学関連を多く制作しているところへ回すとしても古い文献も含んでいると読み上げを調べるだけでもこの量では数年はかかってしまい、記念誌は定期刊行物と人気の単行本の隙間になるので未完成のままになってしまう確率が高いのではと言われてしまいました。これでは私を含め、視覚障害者のほとんどが記念誌を読めません。
 図書製作はボランティアさんにお願いしており特に音声図書はお任せ以外銅しようもないのですけど、テキストデータがあれば点字なら自分たちで正しい読みに直しながら制作していくことは可能ではないか?いや、「視覚障害者のための情報提供委員会」なのですから、鍼灸の近代史を次の世代のためにも残さねばならないとプロジェクトを立ち上げることを決意しました。ただ、「見えない人」よりも「見えにくい人」のほうが比率的には多く、委員会メンバーの全員が点字を扱えるわけではありません。また点字を使う人でもピンディスプレイを所有していないと、編集作業が非常に不便です。さらにパソコン上で動作する点字エディタとピンディスプレイの連動ができること、ハードルがかなりあります。
 幸いだったのが、私が自動点訳ソフト「イブキテン」経穴名中心の漢方用語のユーザー辞書を提供したことがあり、その後も点訳作業があると辞書追加はしていたので自動点訳だけでもソフトゆえの読み間違い以外は意味が通るデータを自動作成できるだろうということです。また点字エディタはブレイルスターを所有していたのであらゆる形式の点字ファイルが扱え、カルテ管理用に複数ストックしてあるXPパソコンの全てにインストール済みですから貸し出しすることも可能だったこと。ハード的にはクリアできそうです。
 次はメンバー集めです。所属する漢方鍼医会の点字使用者の先生に片っ端から声掛けしてみると、全員から協力の承諾をいただけました。点字エディタとの連動ができていない先生がおられたのですけど、貸出で対応でき同級生もかなり古いピンディスプレイしか所有していなかったのですけど、これまた珍しいシリアルポートの付いているノートパソコンがあったので、25年ぶりくらいに向こうの鍼灸院までお邪魔してセットアップと使い方の練習もしてきました。これでもまだ人員が足りないので技術系メーリングリストというところで趣旨説明して呼びかけてみると、盲学校の先生だけでなく開業鍼灸師から点字技能士という資格を持っている人まで数名が集まってもらえました。

 いよいよ点訳作業のウォーミングアップに入らねばならないので編集委員会に無理に無理を言い続けて、先行してデータをもらえるように交渉です。ここは相当に行き違いのトラブルがあって、ご迷惑をおかけしました。ところがところが、ワードファイルで全て届くのかと思えば今回のために集めた原稿や座談会から文字起こししたもの以外は過去の学会誌のPDFなのです。図や表が入っている付近は段組みがおかしくなっている箇所があるのも未だに混乱していますが、それより困るのが紙面をスキャンしているだけなので物理業で改行が入ってしまうこと。点訳ソフトを正しく動作させるにはきれいなテキストファイルになっていることが最初の条件であり、単語の途中で改行が入ったのではちんぷんかんぷんです。それに行頭で一文字落ちていないと、どこで段落が変わったのかがわかりません。仕方がないので手作業で行を結合させ、段落は私の主観で行頭に全角スペースを入れることで分けることとしました。この作業、非常に勉強になるのですけどキーボードの操作が煩雑で、集中力がなかなか続きません。
 そして各先生から最初に相当に「このレベルでは点訳作業が厳しい」と指摘されたのが、元々PDFに拾われている画像に不鮮明な箇所がありOCRが正しく文字認識していない箇所が多々あること。作業を進めていくうちに「この文字列はこう誤認識しているな」とわかるようになったならテキストファイルの段階で置換しておけるようになり、明らかなものはエディタ機能で一斉置換でも対処できるようになったので3クール目辺りからは難読箇所がかなり少なくできているようで、より素早く校正作業から戻ってくるようになりました。
 ワードファイルについてはワード自体にテキストファイルを吐き出させると何故か濁音部分がおかしくなったりしたのですけど、これは文字コードの違いのようでクリップボード経由でテキストファイルを作り直すと正しいものができました。ところがワードファイルで困ったのが、物理業では区切られないものの行頭に全角スペースが入っていたりなかったりがバラバラです。正規表現を使えば強制的に行頭へ全角スペースを挿入していけそうですが、その正規表現の書き方を知らないのでエディタの作者さんへ質問すると、すぐマクロを書いてもらえたので行頭に全角スペースがなければ挿入して入っていたなら無視するということが一瞬でできるようになりました。ワードファイルをもらって点訳するときにいつも困っていた事項だったので、これは爽快でした。

 でも、まだまだ困難は続きます。ウォーミングアップにととりあえず作成したテキストファイルをチームメンバーに配布した時に自分でも校正作業をしてみたなら、んっ「まましょー ちりょー」これ何だ!!とテキストファイルと見比べると随証治療(ずいしょー ちりょー)です。当たり前に使ってきた用語なのですけど、それまでの点訳作業でぶつかっていなかったなら単語登録がされていないのです。イブキテンはXPまでが正式サポートなのでできる限り追加登録を始めたのですけど、早朝から二代のパソコンを並べての作業ではまだ寝ている家族に迷惑がかかりますし煩雑すぎます。試しにテキスト編集をしているWindows10にイブキテンをインストールしてみると動作してくれたのですが、追加の単語登録ができません。調べてみるとXPではプログラムフォルダのなかにユーザー辞書ファイルも一緒に格納していたのですけど安全性のために現在はそんな使い方をしないのであり(今から考えれば恐ろしいことをしています)、幸いなことに参照フォルダの変更機能があったので外付けSSDを指定したなら追加登録できるようになり、一台のパソコンで画面を切り替えながら単語登録の確認と追加ができるようになりました。一ヶ月で100も追加しているのですけど、それだけ普段からボランティアさんたちに苦労をかけてきたという証拠でもあります。
 もう一つ煩雑な作業が、校正作業をお願いするときに個別に送信するのではなくチームにまとめてBCCで送信するのですけど、空いた時間に他のテキストファイルも勉強していただけるようにということと割り振りを最終段階で切り替える可能性があるためです。ブレイルスターではなく「点字編集システム」を使っている先生もおられるのでファイル形式が異なりますから、自動点訳された.BSEをまずブレイルスターに読み込んでから点字エディタに合わせて.BESもしくは.BSに再変換しながら、メールも同時に書いていて最初の方の簡単な校正作業をブレイルメモでやりながらと、三台同時に動かしての作業なのです。これ、休日に一気に集中しないとできない作業で、一番時間が必要なところです。

 こんなところですけど、ワードファイルについては編集後記のような座談会が残るのみのようで、完全に出口が見えました。PDFも証問題に関するものは55%の切り出しが負えられているので、残り一ヶ月弱でしょうか。もう一つのPDFはまだ恐ろしくて開いていないのですけど、表紙写真とかが多いみたいな感じで点訳する箇所がほとんどないことを、実は祈っていたりします。最後に印刷物が届いたなら点字図書館でファイル結合や目次作成をしてもらい、サピエへアップしてもらうという手順になっています(参考のためファイル配布時に同時送信しているのですけど担当者が毎回ビビっているとか、脅迫しているのではないのですけどね)。まだまだ続く作業ですけど、点訳チームの先生方のおかげであり感謝感謝です。