『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

2025年の参った積雪の話

 2024年から2025年に掛けての冬は、「10年に一度の寒さ」という大寒波が四度も到来するという、「なんじゃそれは」状態でした。甲子園の高校野球では「これは10年に一度の選手です」といいながら毎年大注目の選手が出てきますが、「10年に一度の寒さ」という表現は何とかならなかったのでしょうか。今後40年はこんな寒さに遭遇しないということはあり得ないので、注意させたい気持ちは分かりますが何度も繰り返されると効き目が薄くなっていました。
 ウィンタースポーツをされる方々には積雪が条件ではあるものの、鍼灸院の営業という意味では積雪は天敵です。私もまだ視力が残っていた頃には自分用のスキー板を持っていたりで雪そのものは好きなのですが、それはまだ一人で治療室を回せていた時代の話であり、家族を養う立場になると大問題です。また今の規模だと道路が回復した日には予約が裁ききれないのであり、どちらにしても問題です。ということで、今回は積雪に関する鍼灸院の思い出を少し書いてみます。

 まず「にき鍼灸院」が存在する彦根市ですが、琵琶湖を中心に東西南北で気象状況が大きく異なるのが滋賀県の特徴です。大津市などの湖南地域は降雪そのものがほぼなく、京阪神と同じ状態です。湖東地域は山沿いになると積雪がありますが、八日市市永源寺を除いてはすぐ雪は溶けてしまいます。高島氏などの湖西地域は山沿いになると積雪は多いものの、多くのスキー場があるように道路の融雪は大丈夫です。そして湖北地域は余呉町まで行くと豪雪地帯で伊吹山周辺も豪雪であり、長浜市米原市までは道路には水が出るようになっているだけでなく役場で除雪車を持っているので、交通としてはそれでも大丈夫です。
 ところが、まだ湖北地域なのに彦根市から南は国の除雪補助が出ておらず、道路の融雪装置がないだけでなく独自予算で建設会社へ除雪車を委託する程度なので、福井県から来た人には「こんな雪で動けない土地があるなんて」と呆れられたことさえあります。つまり、彦根市滋賀県の中で最も雪に弱い地域と言い換えられます。これ、本当に困っています。
 そこで開業時に、親父が元気で自営業の工場を営んでいましたから建築関連の知識があり、ちょうど地下水がよく湧き出る区画だったので深めの井戸を掘ってくれました。これでふんだんに水は使えて融雪もできます。ここまではいいのですが、駐車場が水平だと融雪ができないので傾斜をさせるのですが、一目瞭然で大げさすぎました。どうしてこんなバカな設計を提案し、施主からの指示といいながらも設計士も工務店も承知をしたのか、軽自動車ではバックで入れるのがしんどいくらいの傾斜だったのです。また高圧水は用意されましたが、それを引っ張り回すホースは自前で途中に穴を開けたものであり、取り扱いの難しいものでもありました。それから駐車場の一番奥にあり、積雪量が多いとつっかえ棒を入れなければならないというカーポート、あれは一体何だったのか今でも理解できません。
 ということで、開業から20年ちょっとは傾斜の強すぎる駐車場の上に、早朝の6時にもなれば親父が作業を始めてしまうので大慌てで起きねばならない状態。寒い地域の冬空は雨も雪も心配ないのに灰色の雲が出ている曇天であり、視力が弱いと積雪との区別が二階の窓からではできないので外へ出て確認も必要ということで、冬の朝は大嫌いになりました。

 2013年に駐車場の拡張をした際に、自動車のことしか考慮されていなかったので駐輪場を新設したのと同時に、雪国で道路から水が出ているのとほぼ同じ装置を埋設で設備しました。駐車場の傾斜も融雪に最低必要な角度までに下げて、普段の駐車操作も改善をしています。それでも埋設してある装置から水を出しっぱなしにするだけで綺麗に融雪できるかといえば、アスファルトの凸凹があるのでスコップやスノーダンプでの手作業も必要です。これは仕方ありません。
 しかし、これでもまだミスがあって、高圧バルブですから堅いので素手では痛くて動かすのが大変。そして経年劣化が速く、一年で水漏れをバルブが起こしてくるのにコンクリートで固めていましたから交換には周囲を一度壊さねばならないので、ドレーンバルブの方を開放しっぱなしにして長く対処させていました。工事は夏場に行えば対処できるものの、新設時に豪雪地帯用の地下バルブをそのまま採用したのに、親父が「ノッチ式にすべきだ」と言い張って大げんかをしながらだったので意地になって交換をしてこなかったといういきさつがあったりもします。
 素手では痛すぎることについては、てこの原理を応用した金属ハンドルを製作してもらって解決。バルブ交換については、親父が亡くなって実家のリフォームをしている時に同時に夏場に行ってもらい、次の交換ではコンクリートを割らなくても済むような対処をしています。ちなみにノッチ式も進化しているでしょうから再提案したものの、「凍結するからダメ」と水道業者から一言で却下されました。
 また玄関は四段の階段とスロープがあるのですが、降雪時には足が滑って危ないのでホースから水をまき続けるようにしています。これもリフォームに合わせて一番太いタイプのドラム式の20mのホースにして、夏場は草花の水まきに、冬場は融雪のために全盲の私でも扱いやすいようにしました。

 さて、積雪時の仕事中の思い出です。開業した年は大晦日になってやっとミゾレが舞うというラッキーな冬の始まりであり、当時はお正月は親戚一同が集まるのが当たり前だったのでここで話題が出て、年明けには新患ラッシュにこちらが驚いたほどでしたが、一月後半からの大雪は今度はキャンセルラッシュで「元の予約ノートに戻れるのだろうか」と、心細くデスクで綿花を切ったりしながら過ごしていました。そこへ新聞広告の集金が入ってこられて、少し南にある犬上川の向こうは積雪が五分の一で別世界だと話してくれました。「あぁそちら側だったらどれだけよかったのに」と、その後何度恨めしく思っていたことでしょうか。十五年くらいするとこの積雪量の境が温暖化の影響で芹川へ北上し、巨大ショッピングモールのビバシティ彦根もできたので、すぐ近くの道路までは自動車は入りやすくなってくれました。
 ある年のクリスマス寒波は強烈で、40cmもの積雪になりましたが、岐阜県からの高校生が積雪量を知らずに電車でやってきて、目を丸くしていたことがありました。このクリスマス寒波の時に親父が融雪のバルブをひねっておいてやろうと裏門から出てきて、凍結で滑って頭痛と左肩関節痛を起こしてもいました。あまりに頭痛がひどいので工場から戻ってきて治療をしたなら、これはすぐ回復できましたが肩関節痛はずっと引きずることになりました。
 彦根で大雪とは30cmから40cmくらいですが、一度66cmになったことがあります。実に35年ぶりということで、「それじゃ次の60cm越えは35年後だ」と話していましたが、わずか二年後に70cmの最高記録が叩き出されたのでありました。この時には全国ニュースで一日中放送されており、一週間後は米原駅周辺がまた全国ニュースで流され続けたので、滋賀県は豪雪地帯という印象を植え付けてしまいました。新幹線が速度を落とさねばならないのは関ヶ原付近が最も大きいのですが、定点観測カメラがあるのが彦根ですからこれも印象が悪い。

 積もった雪で建物が壊れないかの心配はその地域特有の悩みですが、豪雪地域は屋根が鋭角になって滑り落ちる構造になっており、落ちてきた雪のスペースも確保されるようになっています。彦根では建物が壊れるほどの積雪にはならない上に適当に落ちるようになっているのですが、これが玄関先で落雪してくるのには長年悩まされました。前述した四段の会談の眼の前へ落雪してくるのですから、駐車場の大部分を除雪しておいても何にもならない状態になってしまいます。この屋根専用の融雪パイプを新設もしましたが、ほとんど効果なし。
結局は雪止めの装置をつけることで落雪そのものをさせないのが一番効果的でした。駐輪場の屋根は光が通るように強化プラスチックなのでかなり心配しましたが、70cmの積雪の時でも大丈夫でした。でも、鍼灸院の裏側は落雪するので、爆弾が落ちてきたのではないかというくらいの音と衝撃が未だにあります。

 当時「オープン例会と称して、地方組織の枠組みを取り払い広く「にき鍼灸院」を会場に特別な月例会を開催していましたが、ある年に前日まで暖かかったのに朝から豪雪となってしまったことがあります。東京や名古屋からの参加者はすでに新幹線に乗車していましたから中止にすることができず、南彦根駅までの送迎をピストンで行いながら大幅にプログラム変更をして強行突破したことがありました。困ったのが懇親会の予約をしていたことで、朝からキャンセルの電話をして料金交渉をしたところ、「自然現象なので」ということで一度きりという条件付きで無料にしてもらえました。この一件でオープン例会というものは解消し、治療室例会を11月に開催ということに変更しました。
 水曜日の午前中のみの仕事中はミゾレだけだったのに、終わった途端に地面が真っ白になりましたから慌ててスポーツバッグをぶら下げてプールへすっ飛んでいったこともありました。このころはまだ視力があったので除雪作業の時間を作るためという理由をつけたのですが、全盲になってからは少しの距離であり頭の中には地図があるのに三度も迷子になった経験から、吹雪の中は一人歩きしないように気をつけています。

 さて2025年2月の、ほとほと参ってしまった雪害です。冒頭の「10年に一度の寒さ」が年末と大学共通テストの頃のものは近畿地方をスルーしてくれたものの、2月へ入ってまず節分での降雪です。ここは3cm程度だったのでキャンセルは多く発生しましたが、「冬なのでただでは済ませてくれないよね」で、田んぼに根雪ができてよかったなぁと安堵したくらいでした。
 ところが1週間後の「建国記念の日」の直前、土曜日はまた5cm程度でしたが、日曜日は午前中を布団の中で過ごしていたならその間に35cmと大雪になってしまいました。幸いにも日曜日だったので月曜日の仕事には少しのキャンセル程度で、大きな被害は無し。しかし、「牡丹雪でここまでの大雪だとアクシデントが多発しているだろうなぁ」の予測通り、水曜日の午前中は9時の診療開始前から電話が殺到して予備枠まで使い切ってしまい、延長もしなければならないさばききれない状況になりました。
 「この冬の試練は過ぎただろう」と楽観視していたなら、次の週があんなことになるなんて。朝に10cmから15cm程度の積雪、午後には道路は通れますしかなりが溶けてしまうのですが、次の朝になるとまた10cm以上の積雪に戻っているというのが一週間も続きました。除雪をしようにも捨てる場所がありませんし、容赦なく次の積雪です。眼の前のことですからこのときには対処することしか考えていませんでしたが、途中から患者さんも交通事情に慣れて来院されるものの久しぶりに厳しい冬を経験したというのが実感でした。最強兵器は長靴でした。

 除雪作業で背部痛が発生してきた・腕が挙上できない・腰痛が悪化したなどは序の口で、腰椎の疲労骨折は多発しており、店頭から胸椎や上腕骨の骨折も複数で遭遇しました。「にき鍼灸院」だけでこの数ですから、被害全体だとどこまであったのか、まだゴールデンウィークまでは「痛みがどこで治療を受けても治らなかったから」と回ってこられるのが確実で、実際に4月に入ってもその状態です。
 アクシデントはお気の毒と最善の治療を心がけており、ほぼ迅速に回復してもらえています。しかし、病院を受診しても「骨には異常がないと言われた」と処置をしてもらえなかったケースや、状況証拠だけで明らかに疲労骨折を起こしているとわかるのに画像診断だけで幹部に手を触れることさえしてもらえなかったなどなど、検査代金が無駄になっただけには同じ医療人として憤りを感じます。また同業者でも痛む患部にしか着目しない明後日の方向を向いたままの技術の低さは、目を覆いたくなります。特に同業者はせめて脈を触れれば状況把握だけでもできるのに、わざわざ避けているフシが大きいのは「なんでやねん」と何十年も悔しい思いを抱き続けています。
 鍼灸院を開業してから積雪には毎年苦労させられ続けていますが、私は彦根という地域が好きなのでまだまだ付き合っていきます。