『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

接点復活

 それは昨年(2011年)の大掃除を鍼灸院でしていた時でした。割と暖かだったのでほこりがこもらないように開けられる窓やドアは全開にしながら掃除をしていたのですけど、そろそろ仕上げ段階なので玄関のスライドドアを閉めようとしました。
 普段は院長自らは出入りする裏口の鍵は管理していても玄関ドアは内側から操作するだけなので鍵の開閉は助手の役目であり、数年間は触ったこともありませんでした。ところが、締めようとしても指が痛く目一杯力を入れて全身で回すようにしないと鍵が動かないのです。まだ一人で運営をしていた頃にそんな記憶はないので助手に尋ねてみると、歴代の先輩から「玄関のドアはかなり下腿よ、冬はさらに重くなるから全身で」といわれていたそうです。まさか大きなお寺の正門を開閉するのではないのですから、全身で回さねばならない鍵ということに疑問を持って欲しかったですね。仮に鍵が半分壊れていたとしたなら修理すればいいのであり、院長へ現状報告をしないという考え方は自分で鍼灸院を将来営むのに思いやられてしまいます。何のために助手で修行をしているの?

 まぁここではその問題は別にして、また全身を使ってもう一度鍵を開けて原因を探ってみました。すると鍵付近の金具が腐食していたのではなく、ベトベトになっています。これは年数経過により潤滑油が煮えてしまいベトベトになっていたものですから、マシンオイルを買ってきてもらい塗布し治すことを考えました。
 けれど、ここでふと思い出したのが接点復活剤。そう、中学生の頃にアマチュア無線をやっていておじさんたちからよく聴いていた単語であり、フロッピードライブを搭載しなかったiMacのために買ったスーパードライブの調子が悪いので購入したはいいが、1000円ほどだったもののあまりに大きなスプレー缶なので棚の上で保管していたのでありました。接点復活剤は要するに保護膜を作るための薬剤なのですから、コード類の電気抵抗は下げると同時に静電気防止にもなっているはず・・・。
 どのみち棚の上で眠っていたスプレー缶なのですから、別に結果が得られなくても構わないと吹き付けてみました。すると、なんとなんと本当に静電気防止の効果が現れて、指に全く痛みを感じずクルクル回せるようになったのです。
 実際にwebで調べてみると、「ジャックやプラグに塗ることで、金属接触部分に薄い被膜が生じ、これ により導電性が増し、同時に金属表面を汚れ、さびから防ぎます」という説明があって、狙いは大正解だったようです。《コロンブスの卵》だと、自画自賛の一日でした。

 私にとって今年(2012年)は、《接点復活》という単語がキーワードだったかも知れません。まず8月までは漢方鍼医会20周年記念大会の準備で忙殺されていたわけですが、「取穴書」は様々な接点をつなぎ合わせてくれました。あまり読み込まれていない様子なのがちょっと残念なのではありますけど、第四章の「経穴名の由来」を編集したことにより、取り方の工夫や用い方ばかりに目を向けて作成していたのですが経穴の持つ意味について考えることにより古代の人たちの知恵へ接点が復活したように感じられました。
 もちろん私ごときが一年半携わっただけのプロジェクトで古代の人たちの知恵を理解できたなどとは思い上がっていませんけど、臨床現場で助手と会話の中で経穴名がでてくると、「その意味は何なのだろう」と思いを巡らせるようになりました。

 それから、いよいよ「取穴書」が完成したなら実践の段階となるのですけど、夏期研の一時限だけという限られた時間内に大きく変更された経穴を全国の指導者クラスの先生へ伝えるためにはどうしたらいいのだろうか?と、散々に実験と評価を繰り返しました。
 まず衛気か営気に応ずる軽擦を幅広く行い、経絡の最も濃度の濃いいわゆる「経に乗っている」線上を求めます。ここから今回変わったのですけど、性格に線上をトレースすることが大切であり当然指のスピードはゆっくりとなります。しかし、大きく探っている段階で衛気か営気のどちらを操作するのかが病体へは伝わっているので、よほど時間を掛けなければこの「ゆっくり」トレースすることに問題はなさそうです。今文章で書けば簡単なことなのですけど、この結論へ至るまでには夏期研直前まで助手も巻き込んで試行錯誤の繰り返しでした。
 このトレースが経穴の効果を最大限に発揮させる助走となり、ピタリと経穴へ指が当たる感覚と同時に今までと大きく違った変化をもたらすようになりました。本治法が一本のみで終了というケースが、半分くらいになっています。またじゃ正論での治療を確認するにも、取穴段階での指の動きがキーポイントです。
 初めて研修会で先輩が「これでツボに当たった」といわれた時に、脉状が変わったことを体感できたあの感動と今回発展した実技、接点が復活した感動でした。経穴を探るだけで菽法ピタリに脉が落ち着くことなど、「取穴書」が出来上がるまでは考えられない変化が起きており、ひょっとしなくても名人と呼ばれる先輩諸氏は経穴を捉える術に秀でておられるのかなと思うようになりました。その秀でた術を、研修会に参加し努力さえすれば誰もが手に入れられるようになると古典の世界と本当に接点復活となるのでしょうが。

 そして伝統鍼灸学会でした。昨年に「東京宣言2011」が発表され、「日本伝統鍼灸とは」ということでシンポジウムが数年に渡り繰り広げられてきたのですけど、40周年を経ても日本伝統鍼灸を確立するにはほど遠いという実体だけが明確となりました。今まではマイナーな分野の伝統鍼灸ですから「これが日本伝統鍼灸の特徴だ」というものが見いだせればいいのにとは思っていたのですけど、「取穴書」を発行した後にそれぞれの先生の実技を見せてもらうと伝統鍼灸なのに経穴が全くというほど違っているのでは、それは脉診の統一ができないと嘆く前に実技がまとまれないだろうと開き直りの気持ちになりました。
 ここの接点復活は、かなり難しいだろうと思います。できるとすれば漢方鍼医会が巨大な組織へと成長し、日本伝統鍼灸学会の80%くらいを締めるようにでもならないと、実技交換という場を提案しても実現しないだろうと想像されるからです。

 最後に、最近の出来事です。iPhoneのホームボタンだけが壊れるという報告がネット上に溢れているのですけど、我が家のiPad 3thもホームボタンの調子がおかしく悩みの種でした。子供が汚い手で触るからだと思われますが、私はボイスオーバーモードで画面読み上げがないと操作できませんし家族は音声がくっついてくるとうっとうしいので、ホームボタンのトリプルクリックは必須の操作です。特にyoutubeを見始めたならボイスオーバーの音声があると怒られてしまうのに、うまく切り替えができずこちらまでイライラすることも。下手をするとホームボタンの長押しと判断されてsiriが起動してくる始末です。
 そこに今年の大掃除の段取りをしていて、接点復活剤のことを思い出しました。本体そのものへ吹き付けるのは少々勇気が必要でしたけど、軽くボタン付近へスプレーしてみると直後はあまり反応が改善しなかったものの、しっかり乾燥すると動作が以前と同じく軽快になったのでありました。ボイスオーバーとの切り替えはバッチリですし、意図せずsiriが挨拶してくれたりアップスイッチャーがでてきて悩まされることもなくなりました。

 最後は落ちネタになってしまいましたけど、一つのキーワードで一年を振り返ってみると新たにつながりも発見しました。これが本当に今年最後の接点復活でした。