現在「押し流す奇経治療」と自然発生的に命名したのですけど、任脈・衝脈・督脈の三つについては固有流注場を押し流すだけで、帯脈については腎の陽気を衝脈へ渡すという役割から帯脈・衝脈の順番で押し流していくというかなり簡単な法則と理論さえ飲み込めれば誰でも確実に効果が出せる補助療法が現在研究中であり、すでに滋賀漢方鍼医会の会員内では臨床投入できているので技術を手中にしつつあります。「どうして今までこのようなことに誰も気づかなかったのだろう」「この方法がマスコミベースに乗れば鍼灸治療のイメージが一新できるのに」と自負するくらい、基本さえ守れば驚嘆する治療効果がその場で出せます。一番よく知られている奇経(二経)治療のようなアプローチを停止すると同時に効果も解消されるということなく持続力も高いのですが、あくまでも奇経治療なので本治法の代打ではなく補助であり、症状の半分までという弱点はあります。
けれど理論面が未だに弱いことと、きょう脈の使い方はまだテスト段階であり陽維脈・陰維脈の使い方が解明できていないので、今回は「押し流す奇経治療」そのものはかけません。
それで今回は助手時代に開発した奇経(二経)治療で、瞬時にグループだけでなく序列も判断できた方法について書き残しておきたいと思います。学生時代から宮脇和人先生にはご指導いただいていたのに、二経治療を使わなくなってしまうということで、心苦しく思っております。されど臨床は生き物」ですからご容赦いただけるでしょう。私が道具を次々にオリジナル開発しているのは師匠である 丸尾頼廉先生の影響であり、治療スタイルを模索し続けるのは宮脇和人先生の影響です。
奇経についてはまとまった記述が難経で初めて登場しており、その後「奇経八脈考」に代表される古典がいくつか存在しています。ただ、この古典では奇経が存在する意義や有効性については書かれてあるのですが、「こんなふうに治療をするんだ」という指示がないのがとても不思議なところです。それが『鍼灸聚英』(しんきゅうじゅえい)で二つの奇経を組み合わせて用いる方法が提示され奇経治療が大流行していったそうです。ここからは勝手な想像なのですけど、現代の細くステンレスでできた毫鍼なら簡単に刺鍼ができビギナーズラックも含めれば素人同然の入学直後の学生であっても治療効果が出せることがあるものの、古典の時代では太く精度の低い鍼しかないのでよほど腕のある術者でないと効果は出せなかったでしょう。相当に素質に恵まれていなかったなら治療家になれなかった時代に、「二つの奇経を組み合わせたなら効果が出せる」ということで深い刺鍼は不要でお灸でも可能ということから治療家への門戸が一気に広がったから奇経治療が大流行したのではないでしょうか。そして時代は流れて細くしなやかな毫鍼が制作できるようになると、施術の簡便さも含めて刺鍼をする治療が流行し、奇経治療は脇役に戻ったというストーリーが考えられます。
話を現実へ戻して、昭和へ入って経絡治療が提唱されたのですが、この表現は個人的には好ましいと感じていないものの「経絡治療は見切り発車をした」と言われたように基盤理論の骨組みを拡張する形で研修会が次々に誕生していったので、本治法を補うという意味で補助療法という形で奇経治療を取り上げるところも出てきました。そして間中 喜雄先生が磁石テスターを用いて実際の施術前に効果が本当に出せるのかを確認できる方法を提唱され、福島弘道先生が棒磁石テスターを考案されます。そして宮脇和人先生が棒磁石では両手が塞がってしまうか助手が必要ということから、薬局で販売されていた磁石治療具をテープで貼り付けて行うという方法を思いつかれました。
今回の話は、この宮脇先生が貼り付けて使う磁石テスターを用いて盛んに奇経治療を拡張されていた頃のことです。テスターは開発されてもそれでも奇経治療は病症から組み合わせを試していく方法しかなかったので、宮脇先生がご自身の経験の積み上げより奇経の組み合わせを腹部で見極められることを発見されてきました。最初に「奇経(二経)治療簡便表」というものをまとめられ、そこへ書き込まれていた古典の圧診点をさらに絞り込んでグループ判定ができるようになったというものです。
ところが、私は丸尾先生のところへ助手に入らせてもらいましたから丸尾先生のスタイルを意識しながら学生時代の一杯までは本治法と標治法の自分の力量を高めることに集中していたので、具体化しつつあった奇経腹診が全く頭にありませんでした。それなのに助手へ入っても決まった担当を言い渡されなかったので「奇経グループの判定をやりましょうか」と思わず口走ったなら、丸尾先生も「担当しなさい」とあっさり返されたのですが、その時に絡を要られたので反応したというよりも思いつきで返されたのでしょう、きっと。実際にやってみると奇経腹診を知りませんし丸尾先生もやったことがないというのですから、最初の一週間くらいはグループ判定ができたようなできなかったような状態です。でも、その前の年に近畿青年洋上大学の中で経験し会得した火事場の馬鹿力の延長で、用いる八総穴でも手は探っていくのに非常に手間がかかるのですけど足なら照海・公孫・太衝・陥谷・足臨泣・申脈の順で一気に圧痛を確認していけますし、奇経は圧痛点を求めていくものですから普段の治療とは別物の力で押していけるのであり左右同時に行えば比較しながらということで、より反応がわかりやすいというほうほうをひねり出してしまいました。
ここへ宮脇先生が提唱された「定側」(ていそくと読みます)、つまり申脈以外は所属する経絡の脈位速へ圧倒的に出やすいというものを当てはめていくと、適応できる奇経グループの経穴にはしっかりした反応が戻ってくることがすぐわかるようになりました。しかも照海は内果の直下と後脛骨筋腱付着部の下側の二つの反応を探り公孫は第一中足骨に沿って広報へずらせていくように動かす(ここまでは母指を用いる)、それ以降の太衝・陥谷・足臨泣は示指を中足骨の接合部から前方向へずらせてきて、申脈も示指で外果の直下と長腓骨筋腱付着部の下側の二つの反応を探るという手順だと左右の比較と合わせて瞬時にグループは割り出せるようになりました。余談ですが一番下手くそで効果が出ない鍼治療は力の入れ具合が中途半端というかいつも一定のものであり、経絡治療という分野でも診察と治療にはメリハリが必要で軽い手でなければならないのは絶対条件ですが強く深い部分を探るときには思い切りよく力が入れられること、これを自ら編み出してしまった診断テクニックで固められたというおまけが付いてきました。
次は主従なのですけど、これも反応が小さくしっかり現れていると主穴であり反応がやや大きいと従穴だというのも割と早くにわかってきました。陰陽を含めて二つのグループを適応すべきというのも、特に問題はありませんでした。問題は当時「ダブル」と呼ばれていた主穴の磁石を二つ重ねることで効果がやっと顕著になる症例を言われていたのですけど、対処はできていましたがそのうちに八総穴を探る精度が上がったようで使わなくなったので省略します。これは宮脇先生も後から磁石に頼りすぎていただけで取穴の正確さを求めるべきだったと訂正されたことです。
この段落はちょっと余計なことを書いています。気に入らなければ無視してください。もう販売されていない商品なので固有名詞まで出しますけど、久光製薬のマグネキングはプラスに突起がついていてマイナスは平面だったことから視覚障害者も簡単にNSの磁極がわかるので重宝しました。ところが棒磁石の磁力は3000ガウスでマグネキングは800ガウス、そしてこの二つのテスターでは判定するときの磁極が逆になってしまうという問題が実はありました。理由はよくわからないもののMP鍼やお灸に切り替えても診断が変わることはなかったので、「臨床で活かせるのだからいいじゃないか」とそのままになっていました。その後にテスターは銅と亜鉛のものになり、亜鉛はアルミに置き換わ