『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

奇経治療の考察(その2)、自宅補助を確立中

 前回の奇経治療の考察(その1)、治療パターンときっかけからの続報となるのですが、その前にこの半年間の地球レベルの出来事はあまりに大きいので、少し備忘録を兼ねて報告から入ります。

 2020年の年明けは消費税が10%に引き上げられて景気のますますの落ち込みは懸念されるものの、夏には東京でオリンピック・パラリンピックが開催されるのでインバウンドも含めての経済浮上を期待していました。ところが、我々が生きている時間帯ではおそらく一番歴史に残るだろうcovid-19と名付けられた新型コロナウィルスがパンデミックを発生させ、感染阻止のための都市封鎖(ロックダウン)が世界各地で実施されました。日本でも緊急事態宣言から外出自粛を求められ人が動かなくなり、経済活動を止めてしまったのですから浮上どころか奈落の底へ突き落とされてしまいました。7月18日現在、PCR検査の乱発が主要因ではありますが新規感染者数が再上昇していて、それでも活動は停止させないことへの説明がありませんから巣ごもり生活には戻りたくないものの、不安を感じる人がまた多くなってきています。
 この新型コロナウィルスは通常だと片方にしか発生しないのに両方で同時に肺炎を引き起こす、しかも突如として症状が悪化するという厄介な性質を持ち合わせています。そして蔓延し始めた頃に重傷者も死者も右肩上がりの数字になってパニック状態から、3つの密(密集・密着・密接)を避けなければならないということで首相から学校の一斉休校が2月末に要請されました。これに連動して人が集まる行事もすべて中止せざるを得ないということで、鍼灸の研修会も取りやめざるを得なくなってしまいました。
 感染が全国へ拡大していったときには重傷者が非常に多かったのですけど、緊急事態宣言が5月下旬に解除される頃には新規感染者に占める重傷者の割合が低くなり死者数はほとんど止まっていることから、日本では免疫が獲得されたのかウィルスが弱毒化してしまったのかはまだわからないものの、データからすれば脅威に震えるレベルではなくなっています。それでも居住地域以外との交流は仕事以外ではまだ慎むべきという空気なので、6月からは「にき鍼灸院」を会場に実技の自主勉強会を再開するところまでは戻ってきているものの、滋賀漢方鍼医会でも3月からは月例会が社会的責任もあってまだ再開できていません。
 ということで、半年後になった今回のレポートは研修会で幾人もの先生と確認を積み重ねてきたものではなく、二木の個人研究そのものとなります。緊急事態宣言の前後では「外出をしたくない」という人が続出で仕事量が毎年の70%弱にまで落ち込んでしまったのですけど、普段の臨床ではできないじっくり時間をかけての評価はできました。しかし、巣ごもりに戻りたくないのは全員一緒のことであり、免許を持った助手が入ってたくさんの症例から治療体型を早くまとめたいです。


 まず前回に掲載しているところからの若干修正した引用で、どのタイミングで奇経治療を用いるべきかの確信は持てたので再検証から入ります。引用は、ここから。
 それで問題は、一経だけの奇経治療というのがどういう場面で用いればいいのかということです。やり方自体が書かれていないのです。古典の中には鍼やお灸を適宜用いなさいとしか書かれていないのです。えらいこっちゃ、ですよね。それで考えました。消去法で絞り込んでいこうと。
  1.本治法の前に用いるかどうか
 これは一経だけだと任脈なら列缺に鍼やお灸をするということになるのですけど、これだけで効果が出てしまうのであれば本治法をする意味がなくなってしまいます。そこまで奇経だけで効果が出るはずはないのですけど、ここで脈状を作ってしまったのでは治療の意味そのものがなくなってしまいます。ということで、本治法の前に行うというのは却下。広く行われている二経での奇経治療は本治法の前後であっても時間の都合で組み込まれているようですが、脈状を作るというのは菽法脈診を基準にしているという意味で理解してください。
  2.本治法の直後
 本治法で作った脈状をわざわざ壊してしまうことになるので、本治法自体の否定になってしまいますから理論上却下です。
  3.本治法後に標治法へ入る前のタイミング
 本治法から標治法へそのまま入っていく治療家なら先ほどと同じことになります。本治法からある程度時間をおいて標治法へ移るケースのことをここでは指しています。これからやろうとしている標治法は計画性を持っているのですから、奇経を加えて変化が発生したのでは単に邪魔をするだけのことになってしまいますから、やはり却下。ここで奇経治療が効果を発揮するなら、標治法というジャンルそのものが残っていなかったでしょうから、そこからも類推できます。
  4.標治法の直後
 これも標治法そのものを否定してしまいますし、お灸をしているならお灸というのは結構余韻が残るものなのでお灸の余韻でよくわからないということもありますから、このタイミングも理論的におかしいので却下。
  5.ほかの補助療法の後
 ナソやムノの補助療法をしている、あるいはお腹への散鍼の直後なのですけど、これもナソ・ムノ・腹部散鍼を否定してしまうので「あきまへん」となります。「あれっ、奇経を行うタイミングがあらへんやんか」ということになるのですけど、
  6.仮の終了をしてから行う
 消去法で絞り込んでくると、このタイミングしか出てきませんでした。まず一度仮の終了をします。「この後にも残ってるんやけど一度起きて」とか了解してもらい、「もう少し症状が残っていますよね」とこのまま放置しておいても時間経過で回復しそうなものをもう一押ししたいというようなときに用いるのはどうだろうかというあたりから連想していただければわかりやすいと思います。基本的にこのタイミングが一番いいということについて、あれこれやってみた結果なのです。
 具体例の最初は30代前半の喘息の患者さんがいて、小児喘息がひどかったのですけど二十歳くらいで一度治癒してこの10年間はなんともなかったのに数年前からまたひどくなっていて、すぐ熱が胸に蓄積していました。治療をしていくとステロイドが四ヶ月で離脱できてよかったのですけど、12月半ばになってまた具合が悪くなりステロイドを何度か使ったということでその日は胸にすごく熱がありましたから、今まで説明してきた1から6のタイミングですべて奇経を試させてもらったのです。了解を得て、どのタイミングで胸の熱が一番消失するかをいちいち確認させてもらったのです。そうすると消去法で予測していたとおり、一度仮の終了をしてさらに「もう少し胸に熱がたまっているから」ということで後に出てくる診断基準に基づいて呼吸器ということで直感的にも理解してもらえると思うのですけど任脈ということで列缺へ専用鍼を当てると、見事に胸の熱が引きました。そして本人も「最後のこれはすっとした」という感想でした。(引用はここまで)


 この実験で、消去法による絞り込みの考えは正しいとわかりました。次のステップとして、何人かの通常の治療で十分に症状は軽くなるものの取り残しが出るだろうという患者さんに協力をしてもらい、1から5のどれかのタイミングと6の一度仮の終了をしてからのタイミングで奇経による効果を確認させてもらいました。そうすると予測は完全に的中し、全て6の一度終了をしてから奇経を加えるというのが効果が本人にもわかるだけでなく、施術側でも肩井の反応で診断ができるようになりました。
 奇経を行うタイミングが確定し、効果も確実に得られていることを確信してから患者に動作させるのですから、これで大幅な時間短縮ができるようになりました。どんな症状が通常の本治法と標治法までの治療で取り残しになってしまうのかについてですが、単純には一度の治療では回復しきらずぶり返してくるだろうという症状であり、具体的には痛む箇所が移動するものとか胎児が下がっているとか息苦しさとか、他覚的に触知される不愉快や慢性痛で治療をすれば良くなるのにぶり返してくるものをイメージしていただければ最初はいいでしょう。奇経の取り方が慣れてくれば、応用範囲は自ずと広げられます。

 前回の報告が途中になっていた妊娠中の産婦人科の女医さんですが、切迫早産がかなり危ないところへ任脈ということで経渠に反応があったので深く押し込んだ肩井がもう一段回緩むことから奇経専用鍼を5秒間当てると、胎児が瞬間的に上がってきたので、自宅補助としてペンで印をつけた経渠へ朝晩5秒ずつ10円玉を水平ではなく垂直の状態で当てることの宿題を出しておきました。一人目と二人目のときに安産灸の提案はしたものの、「自分の身体へ火を付けるというのは西洋医学の立場があるのでやっぱりできなかった」ということもヒントになり、奇経専用鍼は面取りの綺麗さと銅の純度が組み合わされているものの外見は単純な銅の棒ですから、純度を手の感覚で測定すると10円玉が偶然に近いので誰もが所有していて追加負担のない道具で補助ができればと考えていたものへぴったりでしたから宿題にしました。
 その後は二ヶ月も予約が入らなかったので内心ヒヤヒヤしていたのですけど、報告を聞くと10円玉を当てるたびに退治は上がってきてくれて、一週間もすれば位置は正常であり二週間すると下がることがなくなってしまったので自宅補助を行うことすら忘れてしまっていたということです。本職が医者であってもその程度ですから、「喉元すぎれば・・・」という言葉があるように、その後の対処のヒントに又々させてもらえました。ちなみに胎児が早くから下がってしまい洋梨のような骨盤へ落ち込んでいたお腹が、見事なマシュマロのようなお腹になって3人目なのに予定日を過ぎてからの出産でした。もちろん安産でした。

 腹痛を伴い不定愁訴の強い前期高齢者の婦人は、何度も西洋医学の検査を受けても腹痛の原因は不明でありひどいと頭痛にもなってくるので、定期的に通院をしていました。治療後にはしばらく調子良くなるのですけど一週間程度が限界であり、なんとか三週間くらいは持続できないかということですから本治法と標治法に間違いはなさそうなので一度仮の治療をしてから肩井を押さえると、普通の押さえ方なら十分に緩んでいます。これを思い切り肩井を抑えたなら誰でもある程度の痛みや圧迫感があるものなのですが、奇経の八総穴も思い切り押さえてから肩井の反応を確認すると、ぴったり奇経が取れていれば反応も痛みもほぼ感じないまでにさらに改善するのです。奇経専用鍼で施術をして効果があることを再確認し、ペンで印をつけてこの場合は衝脈で右の公孫へ10円玉での自宅補助を支持すると、半月は調子が維持できるようになりました。半月くらいすると調子に乗ってペンで上書きすることを忘れてしまうので、また治療の最初からやり直しなのですけど人間ですから仕方ないでしょう。
 足底の強烈な痛みを訴えてきた人は宮司さんで、寒くても熱くても地下足袋をつけてご祈祷の間は激しく動かなければなりません。15年くらい前に同じような症状が発生したことがあったらしいのですけど、このときには整形外科へ一年半も通院しなければならなかったということで、そんなに我慢できませんと鍼灸を求めてこられました。骨盤のずれてしまったことが主要因ではあるものの、二度目まで治療をしてもあくる日までしか痛みが停止できないので八総穴を強く押して調べると公孫であり、衝脈は足底や膝の痛みの代表格ですから問題ないところです。ペンで印をつけて10円玉での自宅補助を支持したところあくる週から劇的に効果があったと報告してもらったのですが、ある時から痛みが急にぶり返してきます。足底の張りもまた強くなっているので性格に10円玉を当てているのかと質問したところ、ペンの場所がうっかり消えてしまったので携帯電話で撮影しておいた写真を参考に当てていたといいます。「そんなんあかんわ」ということで、ツボはミクロンの世界で取穴しているものなのでペンの上書きをしていなければ素人では取れるものではないと説明しました。そこからはペンの上書きを欠かさないように気をつけることで、二ヶ月で治療終了ができました。

 ご十歳くらいのご婦人は昨年から長く我慢していた腰痛がどうにもならなくなってしまい、右股関節や膝など痛みが毎回変化してしまいます。あまりに自発痛がひどいので最初は毎週通院してなんとか乗り切ってきたのですけど、自発痛がある程度収まってきたなら毎週の通院は精神的にも金銭的にも負担でありますが継続はまだまだ必要なので、わずかに残る腰の動作痛に対して仮の終了をしてから陽脈を肩井の緩みを確認して行うことにしました。わずか5秒間の奇経専用鍼ですから、患者は予想通り「えっ」という表情ながら痛みが消失してしまったことへはもっと驚いてくれました。他の患者さんはあまり施術する奇経が変化しないのですけど、この患者さんだけは定期的に検討しなければ痛みがぶり返してきてしまいます。真面目に自宅補助をしてくれているので、現在は少しの痛みだけで楽に生活できるようになっています。
5十歳代の男性は空手をやっていて、生傷が絶えません。コロナ騒ぎが大きくなってきた頃にストレス発散のため練習を頑張りすぎてしまい、以前の胸椎の亀裂骨折だけでなく頚椎ヘルニアまで同時に再発してしまいました。場所からすれば督脈と思いたいのですけど、一番苦しさを感じていたのは右上肢の痺れであり任脈である列欠を強烈に押さえるとそれだけで痺れが軽くなるといいます。10円玉での自宅補助を指示しておいたところ、「不思議ですねぇ10円玉を当てると途端に腕の痺れが軽くなり数時間は持つんですよ」という報告をしてくれました。この自宅補助がなければ治療回数が跳ね上がっていたところであり、物理的な損傷にも奇経が十分に効果を発揮すると確信が持てました。

 そして一番効果にこちらが驚いたのは、後期高齢者になっているご婦人の不定愁訴。手の指のこわばりや握力低下とか胸の痛みだとか、現役で働いていた時代からどうでもよさそうな小さな症状をこと細かに話す人ではあったものの自宅の建て替えも終わったならすることがなくなってしまって病気をわざわざ探しているようなところがあり、「それじゃ自宅ででも補助がやって貰える方法を追加しましょう」ということでお灸を期待されていたようでしたが10円玉をペンの印へ当てるだけというのには若干拍子抜けだったみたいです。けれど次の治療では指のこわばりがほとんど取れたと大喜びです。症状が取れていくに従って奇経を変更していくと効果があり、奇経というのは異常事態のときに正経から溢れたものを受け止めるのも仕事ながら、常に存在していてバランス確保をしてくれているものなのだと認識が大きく変わりました。
 ただ、奇経の入り口はマンホールのように蓋がされていて普段は外界からの影響を受けにくくもなっている、そこで補瀉を積極的には行わない奇経専用鍼が奇経の活性化にはちょうどであり、10円玉での応用も理にかなっていたのだと改めて納得できました。

 私が忘年会でのレクチャーやり直しのときに「聞いていた説明と違う」といきなり投げ出さなかったのは、「一経での奇経治療なら自宅での補助をするのもワンポイントのやり方ができるかもしれない」という直感が働いたからでした。助手時代に宮脇スタイルの二経での奇経治療はとても効果があった反面、自宅施灸をイラスト付きで説明してもまず透熱灸のできる器用な人が少ないことと、施灸の順序や数が複雑なので理解してくれるケースはさらに少なく、結局は一割程度の患者さんしか活用してもらえなかった挫折感がありました。けれど一経なら施灸だったとしても間違えようがありませんし、ていしんを用いて効果が出せることは立証済みでしたから新しい方法が考えられるのではと、頭の中はかなり先のことへ飛んでいたからでした。
 仮の治療終了をしてから、こんなふうに患者さんへの説明をします。「この鍼は単純に銅でできているだけなんです、では同じことをやってもらうにはどうすればいいでしょうか」と質問をします。奇経治療での効果を実感してもらってから「10円玉は銅でできていますよね」という答えに、思わず笑みが漏れます。「10円玉なら誰の財布にも入っていますし、それを朝晩にわずか5秒間ずつ当ててもらうだけでほぼ同じ効果が得られるので自宅補助となります」の説明には、さらに笑顔になってもらえます。ついでに「こういうときには治療器具の購入を持ちかけられることが多いのですけどそんな事できない小心者なんです」というリップサービスをつけると、もっと喜んでもらえます。追加負担がなく施術が勘弁で効果も期待できる、患者サイドとしては願ったり叶ったりのものが提供できるのは治療家サイドとしても格段の喜びとなり、結果的にリピート率が上がってくれます。ウインウインの関係というやつですね。

 話が多少前後してしまいましたが、治療家サイドが一番気になる今紹介している一経のみを用いる奇経治療の判定方法と確認方法についてです。
 「どうしてそんな簡単なことに気づいていなかったのだろう」と指摘されるまで考えもしていなかったのですが、専有の流注と経穴を持っている任脈の治療点が列缺で、同じく督脈が後渓というのは実はそこまで奇経の流注が伸びていないと治療点にならないということです。ところが二経で治療をするスタイルだと任脈と督脈と衝脈が中焦から起こるということと帯脈の解説はあっても、その他は流注上に位置しているので正経の経穴を間借りしているという説明しかなく、任脈と督脈はここが治療点だとしかないのです。
 緊急事態宣言中の時間がたくさんできてしまった時に日本の研修会の有名な本を奇経に着目していくつも聞かせてもらったのですけど、詳細な記述までしているものには巡り会えませんでした。唯一「触診法による奇経八脈及び兪募連絡線」という本は、著者の岸勤先生がご自身の特殊感覚から奇経の流注を書き起こされたもので、海外の先生にも特殊感覚を持った人がいてその堆肥まで書かれてありました。残念ながらWHOの経穴記号がいちいち付加されているので点字が非常に読みにくく、まだ記号を外す作業の途中です(個人的活用ということで許してください)。
 それで現時点では新井芙美法先生がまとめてくれている奇経の概要を学会誌から何度も聞き返し、正経の流注と大きく違っている点をピックアップしてまずは覚え込みました。臨床からの手応えでは流注が複雑な任脈と督脈はやはり該当するケースが多く、体幹の前面と後面のように他の奇経でもそうですが表面の流注から先入観年を持たないほうがいいようです。左右どちらになるのかもまだよくわかりませんが、二経で用いるスタイルだと概ねの傾向が経験から出されているものの、ばらつきが多く症状と同じ側というのも必ずしも当てはまらない感じです。ただ、上半身と下半身では症状に近い八総穴が該当しやすい傾向はあると思われます。
 もっともじゅうような診断方法ですけど、脈診と腹心ではヒントすら見つかっていませんが肩井を思い切り強く押し込むことで、素早く判定できます。手順を守っていただき押さえる圧力を躊躇しなければ、滋賀漢方鍼医会で実技をした範囲だと容易に習得してもらえています。まず一通りの治療を終了させてそれでも症状が残っている、あるいは自宅補助をさせたい目標を確認し、続いて肩井を強烈に押し込んで残りの硬結を確認します(患者に痛みを与えないように伸ばした示指の橈側を私は用いています)。続いて八総穴を順番に左右同時で強く押圧し、反応を見極めていきます(母指と示指は角度や場所によって使い分けますが左右で同じ指を使わないと正確な判断はできないでしょう)。八総穴は正経と同じ位置であり、垂直に押し込むことがコツのようです。「これ」と手応えがあったもの一つだけををもう一度強く押し込んでから、肩井の硬結が緩んでいれば使える奇経と判断できます。症状が強ければ、この時点で患者に軽減しているかを確認することもできます。
 治療は新しく製作した奇経専用鍼があれば用いてください。ただし、前述のように奇経は常に存在しているもののマンホールで蓋をされているようなことが多く、そのマンホールを開けばうまく交流してくれるのですから5秒間と極めて短時間圧力は加えず、垂直に奇経専用鍼を押し手も作らず単に当てるだけです(視覚障害者の先生は鍼を正確に当てるための押し手が必要ですけど、鍼を当てると同時に押し手は除去します)。奇経専用鍼を当てた後だと反応がくっきり残るので、これはおもしろいです。そしてペンでの印もつけやすくなります。
 10円玉での自宅補助を支持する時には、「ピンポイントになることが大切なので横に寝かせるのではなく立てた状態で印を狙ってください」と、そして「強く押さえる必要はなくむしろ逆効果であり5秒以上行うのも逆効果になります」と指示します。またピンポイントなので、場所がずれないように定期的にペンでの上書きをするようにも指示します。
 そしてもう一つ大切なことなのですけど、奇経専用鍼が手元にない場合は普段治療に使っているていしんではなく10円玉を用いたほうがいいです。ていしんは気が流れるように作られたものですから正経へも働きかけてしまうので、マンホールの蓋を開くだけに徹したほうが奇経の効果を発揮できるからです。施術の秒数も鍼の種類も「これでもか!!」というくらいテストを繰り返しての結果ですから、まずは疑わずに追試してみてください。

まだまだ荒削りな状態な上に研究をすり合わせる段階にも入れていないのですけど、私の臨床の中では自宅補助を加えられるというもう手放せないパラメーターが増えています。特に若い開業を目標としている鍼灸師には、経験が浅い段階からでも漢方はり治療のみで治療をしていくべきであり、そのためには必ず効果が上がらなければならないのですけど奇経治療は手助けをしてくれます。しかも自宅補助は10円玉を用いてもらうだけなので、数回は実行をしてくれますから治療家として羽ばたけるチャンスが大きくできるでしょう。できれば助手として内弟子修行をすれば、開業直後から困ることがありません。ベテランでも自宅補助を望んでいる患者は多いので、さらに営業反映の手助けになってくれるでしょう。
 もっと症例を積み重ね簡便にできる部分は簡便化させて、漢方はり治療の正式なアイテムにできるように追試していきます。