『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

ていしんを試作中(その5)、鍼は挟むもの

ていしん試作品4

 オリジナルていしん製作レポートも第五弾となり、しかも記事投稿が一ヶ月以上も飛んでしまいましたから少々だれてしまった感じがあるのですけど、試作品第四弾が届き最終チェックをしていたということでご勘弁を。

 さて元々から試作品は数段階製作してもらう予定にしていました。最初の試作品は私と鍼製作所の間でイメージが合致しているはずがなく、概ねのものをとりあえず製作してもらって具体的な注文を入れるための土台でした。
 第弐弾になるとていしんの形状そのものは「これでよし」という段階となり、80%はイメージ通りのものとなりました。ただし、そのまま臨床を続けることは困難であることをあらかじめ分かっていてそのような形状としてもらったのですが、先端を単なる切り落としにしていましたから脉の出来上がりが粗雑になっていました。これは第三弾と第四弾の比較をするための土台でした。
 第三弾では先端を綺麗に面取りしてもらうことで皮膚への当たりがよくなり、臨床へ充分に投入できる段階となりました。もちろん脉状も粗雑さが消えて、欲しかった太さも実現できるようになっています。

 そして第四弾なのですが、今回は先端も龍頭と同じように真円にしてもらっています。龍頭の先端を真円にしてもらったのは柿田塾の柿田先生の講演を参考に邪気が抜けていくような構造はできないものかと発想したものであり、先端を真円にしたのは皮膚面が凹まないようにしてていしんの効果をより発揮させられればと考えたからです。
 ていしんを皮膚へ押しつけるような接触の仕方はしてはならないのですけど、第一弾・第弐弾の時に臨床の中で実験させてもらったのですが、臨床経験がそこそこの年月になっている私でも先端が荒削りだと、力は抜いているつもりでも皮膚面が凹んでいたようです。第三弾で綺麗に面取りしてもらったなら皮膚面が凹むことはほとんど発生していなかったようですが、ていしん自体を太くした分だけ重さが発生してくるので真円にすれば道具側での施せる対策は行ったということで、脉状は太いままにより柔らかくなればいいなぁと思っての改良です。
 実際に手にするまでに一つ気になっていたことは、先端も真円にすることで術者の邪気が患者さんへ流れてしまわないだろうかということでした。患者さんからの邪気は龍頭の端が真円なのでここから勝手に抜けるとして、気を補うのも太い側から細い側へと流れますからここまでは第三弾で証明できているのですけど、邪気も気の一つですからそれまで流してしまわないかという心配でした。
 しかし、患者さんは「病気」という気を沢山持っているのであり、邪気というものは内向する性質もあるかも知れませんが概ねは外へ向かってきますから、心配だけの範囲で済んでいるようです。
 また古典にもていしんは丸い側で補うとありますし、散々に小里式ていしんで丸い側を使ってきて何も発生しなかったのですから、半日使うだけで「何を余計なことを考えていたのか」と自分で自分がおかしく感じられました。
 さらに鍼とは「気のアンテナ」なのですから、使い方は術者でほとんど決められるものであり、今は衛気を補うべきなのか営気を補うべきなのかと手法に意識を集中していれば心配無用だったようです。


 ここで前回からの話の続きとなりますが、どうして龍頭に平面を設けたかについて開設します。
 いつも「鍼を握る」と思わず表現していますけど、本当に鍼は握るものなのでしょうか?ここではイメージしやすいように、まず毫鍼を頭に浮かべてください(実物があればもっといいです)。
 この毫鍼を持つのは、どうしたらいいのでしょうか?まず鍼体のみを握ってはいけません。これこそ「鍼を握っている」行為ですね。では、龍頭の端を持つというのも鍼を「つまんでいる」ことになり力が不均衡となるのでいけません。結論としては龍頭を持つことになるのですけど、龍頭と鍼体の境目に力点が来るように軽く挟みます。
 そうです、鍼とは「握る」ものでも「つまむ」ものでもなく、指先の一部となるように「挟む」ものなのです。「挟む」ということは表現を変えると指に吸い付けているような感じということで、力はほとんど入れていないのですがかなり手を振り回しても鍼が落ちることもなければ角度も変わらないように「挟む」のです。

 しかし、鍼灸学校では鍼の持ち方そのものを教えなくなっていますし、ディスポの時代となって手袋を付けたままで鍼をするとか押し手を作らずに鍼をせよとか鍼灸術としてのテクニックが急速に衰えている現代にあって、伝統的な鍼灸術を選択した若手に「鍼は挟むものなんだよ」と説明しても実際にはそのように手が動きません。またベテランで相当に手法がこなれていたとしても夏期研実技編(その3) 実践的手法修練が採用されるまでで書いたように衛気・営気の手法を客観的に評価できる方法で修練してみると、時間経過とともにどうしても型くずれがあって手法を安定的に行えているかが疑問となります。
 手法は押し手と刺し手の共同作業でありウェイトは押し手の方が高いのでしょうけど、刺し手の示指をしっかり伸ばせるように道具の側で工夫ができれば少しでも完璧で安定した手法につながるのではとの発想で、ていしんに平面を付けてみようということになったのであります。
 平面を付けるためにはていしんそのものを太くしなければならなかったのですけど、龍頭だけを太くすればいい話であり森本ていしんの一番美味しいところを真似させてもらって段差を付けて先端は細くしましたから押し手との問題はクリアです。

 もう一つ問題が残っていて、それは術者によって手の大きさや形が異なることを全て合わせられるかということでした。押し手の形が満月と半月のタイプがあるように、刺し手の示指は伸ばしておくべきですが鍼を挟むもう一つの拇指については人それぞれの角度があります。これを解決したのは鍼製作所のアイデアであり、当初は私の手に合わせて両面に平面を設けたデザインのみを発注したのですけど、片面だけに平面を設けたデザインも第一弾で同時に製作してもらったなら「これはいける」ということで、二つのデザインで試作品を進めることにしたのです。
 前回の写真は私の手に合わせてデザインした両平面タイプを握っていたところであり、拇指も鍼先を向いています。今回の写真は片平面タイプを握っていて、両平面タイプに比べれば龍頭の太さがありますから拇指は鍼先と同一の方向にはならないのですけど、術者の手によっては圧倒的にこちらのタイプの方が鍼を挟むのに適していると感想をいただいています。

 さて鍼製作所から「二木式ていしん」と命名された今回の試作品ですけど、スタンダード仕様が第四弾のものと同一に決定しましたのでイトウメディカル 電話058-266-4598から購入して頂けるよう既に受注開始となっています。