『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

その世界のイチローに誰でも近づける

 2009年9月14日に大リーグのシアトルマリナーズ所属のイチローが、9年連続200安打の記録を達成しました。これは昨年までに達成していた107年ぶりの8年連続の200安打記録を破る大リーグ新記録であり、通算のシーズン200安打はピートローズなどが10という記録を持っているそうですが、この数字と比べても9年連続という数字凱歌にすごいものかが分かります。まさに偉業達成です。
 プロスポーツ選手ではありますが「人のことを・・・」といいながらも様々なブロガーがこの話題を取り上げているのでしょうけど、まずは素直に大偉業の達成を心からおめでとうとお祝い申し上げます。

 さて、この大偉業に対して何ら文句があるのでもなければ誰もができることでもないので「すごいこと」だと感心するばかりなのですけど、イチローだったからできたのではなくイチローだからこそできたという話に進めたいと思います。
 結論から先に書いてしまうと「見えない努力」と「プレイングマネージャーを意識しうまく使い分ける」ことが、イチローだからこそできたという話であり、この二点が自分なりに使いこなせれば今からでも充分に「その世界のイチロー」に誰もが近づけると思うのです。あくまでも「なれる」のではなく「近づける」段階ですけどね。

 私は第15会漢方鍼医会夏季学術研修会滋賀大会の基調講義の終盤で、次のようなことを喋りました。
 また例え話になりますが、イチロー選手が大リーグに渡米して随分になりますけど、福留選手が実は破格の年俸で今年渡米しました。何故福留選手が欲しかったかなのですけど、フォアボールでも何でも攻撃が長くなることを常に考えている選手だからなのです。ですから犠牲フライも犠牲バントも、フォアボールだって躊躇なくこなせるのです。対してイチロー選手ですが、これもイチロー選手自身が話していたことの受け売りになりますけど「私はどうしてヒットを打てるのかが説明できる」「ヒットを打つための理論を持っている」というのです。そして「ファンはヒットを打つところが見たいのだから」と、フォアボールは積極的には選ばないのです。さぁ治療家としては、どちらのタイプの方がいいでしょうか?
 概ねはイチロー選手タイプだと思います。例えば肩こりに対してクリーンヒットで取ってもらいたいでしょうし、取ってあげたい。ところが私が駅ホームから転落してしまったケガのように、症状がひどすぎて時には一歩ずつ前進させる少しだけでも改善させることに終始しなければならないケースもあります。だから、「このピッチャーからはヒット連発は望めないから一つでも塁を埋める」と福留選手のような態度が必要なこともあります。
 ここで我々の話になりますが、鍼灸院の経営者であり治療家は、プレイングマネージャーなのです。イチロー選手も福留選手も使わなければなりませんし、ホームランバッターやその他の選手を使い分けて行かねばならないのです。幸いにして、自分自身で色々な役割になれます。イチロー選手にも福留選手にもなれるのです。その時々で今はどうすべきかを考えて、変化をつけながら治療をしていきます。決していつもホームラン狙いばかりにはならないことが大切だと思います。

 「プレイングマネージャーを意識し使いこなす」ことについては、これ以上の説明は不用でしょう。いえ、決して福留選手が自らを制御できていないと書いているのではなく巨額の報酬を得ている素晴らしい選手なのですから自分のスタイルをしっかり実践されています。野球は相手と戦うゲームのスポーツですから福留タイプも絶対に必要です。
 でも、我々の実生活はゲームではないのですからオールラウンドのイチロータイプを目指し実践すべきだと書いています。「いつもホームラン狙いばかりにはならないことが大切」というのは宝くじの当選ばかり夢みているようなもので、当たった時は大きいですが数年に一度も当たりません。まずは着実に堅実に、それでいて実績が残る仕事をせねばなりません。

 「まずは着実に堅実に、それでいて実績が残る仕事を」と簡単に書かれてもというところですが、そのような仕事のためには理論が伴っている必要があります。鍼灸の世界でもいわゆる刺激治療と呼ばれる局所への施術を主としたやり方がありますけど、診察と診断に基づいていなければ「やった・効いた・治った」と理論が全くなく、これでは再現性もありません。非常に素晴らしい素質をもたれて名医の誉れ高い先生もおられますけど、直感の世界のみでは着実に・堅実にとはならないでしょう。

 着実に・堅実二を実践するには、ここは努力しかありません。努力とはパフォーマンスではできないのですから、見えない箇所で人知れずやっていることが「努力」でしょう。
 これはよく知られている話ですけど、イチローはストレッチ体操だけで一時間を費やすといいます。身体の柔軟性を損なわないようにするためであり、故障しない身体を作るためです。プロであったとしても練習時間確保のために一時間もウォーミングアップに割けないというのが現実ですけど、それを自らの努力で続けていることが「イチローだからこそ」の所以でしょう。そのため練習に出てくる時間は必然と誰よりも早くになります。それにクーリングダウンにも相当な時間を割いているということです。
 当院では、学生の予約に関してはよほど遠方でなければ十七時台までと規定しています。十八時台は社会人優先ということもありますけど、治療を受ける日には部活を休んでメンテナンスに集中しなさいとしっかり言い渡しています。メンテナンスもできないようでは、いい選手になれないことなど当然ですし、逆に言えば精神コントロールの手伝いをしているのですから指示に従えなければそれだけの選手と見切りを付けています。

 努力は身体的なものだけでなく、精神的な面でも必要だと思います。特に「人のために何ができるのか」が考えられるかだと思いますし、「どうやったら突破口が開けるか」を常に考え続けることだと思います。イチローだってピッチャーを諦めた挫折の過去がありますし、ドラフトも四位指名の無名選手でした。オリックス時代に130試合で210安打という数字をひっさげて乗り込んだ大リーグですけど、野手では初めての挑戦で不安視もありましたしFAでもありませんでした。常に突破口を開く精神的な努力も怠らなかったでしょう。
 これらが継続できたなら今からでも「その世界のイチロー」に誰でも近づけるでしょう。