『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

薬のメカニズムを考える

 今や現代病の代表ともなってしまった精神の不安定ですが、鍼灸院へ来院する患者数も増加傾向にあります。
 患者数の増加は最近顕著なのかも知れませんが、精神的な原因により体調を崩すケースはかなり以前からあったものであり、今回は鍼灸院で注意すべき事項と、特に薬のメカニズムについて書いてみたいと思います。

 本題に入る前ですが、所属する漢方鍼医会で本部における「臨床家養成講座」の第一期が先日終了しました。私は担当者の一人として初めての試みに参画させて頂いたのですけど、人生で色々なことを経験されている方が多くこちらの方が勉強させてもらったことをまたまた実感したシンポジウムが三月に行われました。
 その中で語られていたのですが、ミシュランの東京レストランガイド発行から経営学へと話が進み「「赤ちゃんからお年寄りまで自分の人生は自分でマネージメントしているのですから、ある種の経営者といえます。何らかの外因や要因によってそのマネージメントができなくなってしまった結果が、精神的不調を来たし体調不良へつながっていくのではないか」とのことでした。
 精神的不調は鬱病精神分裂病などその程度によって病名が変化するというのが一般的な理解ですけど、今や症状は多様化しており一つの物差しだけでは測定できないのですが、不調を来した原因とは自らの人生マネージメントに行き詰まったからという説明は的を射ていると感心しました。
 ですから、回復の鍵は、人生マネージメントをどのようにすれば立て直すことができるかという一点に絞れますね。
 まぁ言葉だけでは簡単なのですけど、色々な環境的要因などもあってそれがたやすく実現されないわけですし、本人がその気になってくれるまでの家庭もしんどいものがあります。

 さて鍼灸院での話に戻りますが、よほど以前からの鍼灸の大ファンでない限りは発病して最初に鍼灸院を訪れてくれる患者は皆無です。心療内科や精神科を訪れ、大量の服薬をしてその副作用がつらくて鍼灸を頼って来るというケースがほとんどです。
 問題点は既に明確になっているように「薬漬け」となっていることですが、日本人の全般的な習性というのか固定観念が強すぎるというのか薬害を受けているのに薬から脱却しようという考えそのものを患者さん側が持ってくれないので、体調回復のための治療と同時に固定観念を払拭するように鍼灸師は心のケアにも取り組まねばなりません。

 素人さんにとって、薬は必要なものです。何か症状が急変した時に素人レベルでできることは服薬することくらいであり、これが命に関わる心臓病などであればなおさらです。
 しかし、現代西洋医学の薬というものは魔法の妙薬ではなくむしろ悪魔の毒薬的な要素を持っているケースの方が多いくらいです。漢方薬にしても「これとこれを同時に併用してはならない」というような副作用を警告する文面は多く、単独で用いても副作用を表すものもあります。

 まず薬というものには必ず副作用があるものであり、逆に書けば副作用の側へ症状を移してその間に主訴部が自然回復してくれるのを期待しているのです。
 リウマチの痛みに対して消炎鎮痛剤を処方されるとうまく合致すれば痛みも腫れも消失するのですが、胃の具合も同時に悪くなります。胃の方へ症状を移すことでリウマチが回復したように感じるのであり、これでリウマチが自然治癒すればそれでよしですが服薬を止めてまた痛みや腫れが戻ったのでは薬は何も身体を治したことにはなっていませんよね。
 まず「薬とはこういうものだ」というメカニズムを知ってもらうことでしょう。
 ですから、服薬量に関しては、処方された範囲内を越えないようにと注意することです。

 ちょっと悪口になりますけど、どんどん薬の種類も量も増やす一方のお医者さんがいますけど、薬のメカニズムを理解されていないのではと疑問に感じています。それに自ら無能であることを証明していますよね。
 薬の種類がやたらと多く量も増やされるばかりであるなら、転院することを勧めるべきです。

 さぁここから一番の難関となる薬からの脱却へと向かいます。
 薬をやめたいあるいは薬を減らしたいと鍼灸院を訪れたはずなのに、一方では薬を手放す気がないのです。ここは前述したように、素人レベルでは症状の急変に対処できるのは薬を飲むことしかないので、無理矢理「やめろ」コールをするのは逆効果でしょう。
 むしろ「併用をしていきましょう」と積極的な提案をすべきと思います。「薬ほど今の症状をコントロールするのに的確なものはなく、逆にコントロールするだけで病気そのものは治さないのですから治すために鍼灸はゆっくりアプローチしていきます」とすれば、心の矛盾も晴れてくると思います。
 そして、処方された量以上を乱用しないことだけ約束してもらうことです。

 ここまでコミュニケーションが取れればほぼ軌道に乗ったことになるのですけど、先日はこのような事例がありました。
 仕事のストレスとプレッシャーから過呼吸発作を起こすようになった男性は、男の料理やパソコンなど趣味の話も意気投合して順調に回復し半年足らずで職場復帰を果たしました。
 勤務が楽しく以前からのバトミントンをお嫁さんまで誘い込んで、朝から晩まで活発です。活発すぎるのでおかしいと思い尋ねてみると、「今はスタートダッシュなので服薬量を倍にしてハイテンションを維持しています」との答え。
 「それはまずい、ハイテンションは作られたものなのだからマイペースへそろそろスローダウンしなさい」との説明にうなずいていたのですけど、復職から三ヶ月経過してほっとしたのでしょうまた過呼吸発作です。服薬量も落としていなかったのは、ご想像の通りです。

 この事例でのポイントは、「ハイテンションは作られたもの」というのがハッキリしていたことです。
 まず患者さんと「段々と薬が手放せなくなっていっただろう」ということを確認し、薬は常用すると依存性が強くなることと禁断症状に陥っていた現実を突きつけました。
 スポーツが大好きであったことから、「オリンピック選手でも記録を出さねばというプレッシャーと次の選手に追い抜かれてしまうストレスがあるためドーピングに手を出してしまう」と話を展開し、「ドーピングをすれば驚くほど力も出るし記録も伸びるのだがそれは作られたものであり発覚後には名誉も何もかも失うだけでなく身体もボロボロ」と客観的事実から、「それでも手を出す人が絶えないのは自分を客観的に評価できないからだ」と結論させました。
 薬とは魔法の力を与えてくれるものでは決してなくコントロールだけしてくれるものであり、用い方を誤ると逆に身体も人生もボロボロになってしまうものだと薬害エイズや薬害肝炎などの話などもしました。
 この事例の場合は、「今日から処方以上の量は決して使わず減らして調子がよくなればその方がいい」と、完全脱却を目指そうということになり精神的にとても気分良く帰宅されました。

 人間が人間を治療するのですから全てのケースでこのように説得や決断がうまく運ぶわけではないのですけど、薬のメカニズムを考え不要になれば脱却をしていく姿勢を持って頂くことが、鍼灸にとっても国民全員の健康にとっても大切なことだと感じています。