『にき鍼灸院』院長ブログ

不定期ですが、辛口に主に鍼灸関連の話題を投稿しています。視覚障害者の院長だからこその意見もあります。

不況と対症療法の限界

 「100年に一度の大洪水」と表現されるように、2008年の秋から始まった世界的な不況は「真っ逆さまに墜落していくようだ」と経営者たちが悲鳴を上げている不況へと一気に突入しています。
 このきっかけとなったのはアメリカでの「サブプライムローン問題」と表現されるもので、簡略化して説明すれば好景気だった時代に沸き起こった住宅ブームに便乗して優良顧客以外にも住宅ローンを組ませ、最初に購入した物件を高値で売り抜ければより高品質な物件へ切り替えられるか売却益が顧客に入るというもので、中には住宅はどうでもよく売却益目的でローンを組むなどマネーゲームが展開されていたのでした。
 実際には証券会社やファンドの活動などもっと複雑な金融での背景があり、ローン自体も開始からしばらくは返済が低額に抑えられているなど錯覚を起こさせる仕組みがあって、天井知らずで地価が高騰していくという前提のマネーゲームがいつまでも続くはずがなくアメリカ第三位だった証券会社リーマンブラザーズの破綻から、世界中に貯蓄有線で設備投資を筆頭に市場へお金が戻らない負の連鎖が広がっているものです。
 日本の経済においても負の連鎖は直ちに実社会へと反応し、海外での売上が八割で購入意欲の低下と金融事業を多く抱えているという三十苦から大手家電メーカーがいち早く一万六千人もの人員削減を発表したことは衝撃的であり、その後も急激に進んだ円高により輸出で利益を確保していた業種は軒並み利益が吹き飛んで赤字転落も珍しくなく、人材派遣会社からの期間社員を一気に解雇することは社会問題となっています。
 特にアメリカでも日本でも産業を支えてきた自動車メーカーの大不振が及ぼす影響は甚大で、解雇されてしまう期間社員の人数も半端ではありませんし工場を中心として動いてきた地域社会の経済停滞や、下請けを中心とする連鎖倒産の影響は誰にも予測できないほどの大津波を引き起こしかねないと必至に防衛策が打ち込まれているところです。

 健康を守る仕事ということで公務員と同じく景気にあまり左右されないと思われている我々の鍼灸業界ですが、これだけお金が市場へ戻らない状況となれば当然ながら影響は大きく、それが健康保険で支えられている西洋医学においてでも既に影を落とし始めています。つまり受信が必要と思っても交通機関の費用が大きかったり付き添ってもらえる人が確保できなくなったり、健康保険費用の滞納も年金の滞納並みに深刻な問題となりつつあります。
 保険証が無効になっていれば窓口では全額負担が必要となり、今まで当たり前に思っていた支払いが実は莫大な費用であったことに愕然とし、まだ病弱な幼児や小学生が親の都合で医療を受けられないという事態も発生しています。もちろん自治体の配慮で子供には保険証が無効になっていても受信できるような処置は施されつつあるのですけど、生活保護でもなければ完全な無料とはなりませんからやはり手控えられているのが事実です。

 ここで話を経済一般、特に産業について戻します。
 期間社員の大量解雇に端を発している問題ですけど、社員寮からの退去を求められたり失業保険の至急対象外であるなどホームレスを生み出す要因となっており、人材派遣会社から安易に職を得るという携帯に対して嫌悪感が抱かれるようになり、企業の姿勢も厳しく問われています。
 人材派遣というシステムそのものが悪いわけでもなく必要としている人たちもいるのでこれが問題ではないのですけど、安易な経営調整の手段に用いられていたことに一番の問題があります。
 そして今回の不況でみんながやっと認識したことなのですけど、1.まずは需要に対してメーカー数が多すぎて認識はあったにもかかわらず自らの利益のためだけに供給過剰を続けてきたこと。2.次にその場しのぎというのか対症療法で切り抜け続けてきた小手先の施策では、もうどうにもならないこと。3.さらには一斉の横並びではなく整然とした階層構造へと社会全体が変わらなければならないこと。これらが実行されなければ、世界経済そのものが破綻してしまいます。
 これを鍼灸業界に当てはめてみます。

 2.の対症療法ではもうどうにもならないということはそれも西洋医学の分野で叫ばれ続けてきたはずなのですが、第一次オイルショックの時代から叫ばれ素人でも充分に認識だけはしていたはずなのに、テクノロジーの進歩により本質が隠蔽されてきました。「移植医療」などという言葉までできてしまいましたが、問題の本質を回避して交換をする技術でありその影には誰か別人の死があるという相反する現実もあるのです。
 しかし、資金の伴う治療法を選択する人は極端に少なくなりますから、もうこの手は使えません。根本的な治療が患者側から求められますし、それが「どういう意味で・どのように考察されて・どのような方法を選択すべきか」が説明できなければ西洋医学の医者でも東洋医学での鍼灸師でも食えなくなってしまいます。西洋医学の今後は、鍼灸以上に変革が迫られて厳しいだろうと想像されます。
 勉強をしていない医療従事者など、医療行為を続けられていること自体がおかしいのですけど、やっとここにメスが入るでしょう。対症療法のみの限界は患者側から突きつけられ、痛む箇所へ痛み止めの注射をするだけ・痛む箇所に鍼を施すだけでは医療とは元々呼ばないのです。
 漢方鍼医会が掲げてきた病理考察を根幹とする"漢方はり治療"は、根本的な治療であり説明のできる治療法でありますから、どんな時代にも必ずや底力を発揮するものです。

 その次は3.の一斉の横並びではなく整然とした階層構造へと変わらねばならないというところにつながるのですが、これは技術伝承のための研修会が全国的に再編成されるべきということを意味しています。もっと具体的に記述すれば、秘伝口伝での技術伝承ではなく、選りすぐれた技術を持ち合わせている人たちが、次の時代を作る人たちへ・地域医療を背負う人たちへ階層的に技術を伝える研修会の構造を構築しなければならないという意味です。
 この時二ですけど、トップにいる人たちが利益を独占するようではダメです。医療とはご奉仕の世界なのですから、それを忘れてしまっては技術は停滞してしまいます。

 そして一般社会とは順序が逆さまになりますけど、1.数が多すぎて供給過剰であったという点ですがこれは施術紗数のことではなく研修会の乱立と読み替えていただければ納得されるでしょう。
 確かに一つの研修会のみでは刺激も改革も次第にエネルギー不足となるのでいくつかの流派が存在することには反対しませんけど、現状は少数派の伝統鍼灸ですから絶対的な人数がいないのにあまりに数の方が多すぎて優れた技術者の奪い合いとなり、さらなる人材不足にさせています。西洋医学やその他の医学と会話をするためにも、研修会はいずれ再編の時期が来るはずです。また西洋医学においても、同じような再編がなされなければならないでしょう。

 長々と書いてきましたが、不況という試練をバネに今まで改革の必要性があってもできていなかったことをこの時期にやってしまうこと、一般経済では必ずや行われる改革ですから医療の世界においても怠ってはならないと自らの戒めのためにも記述しました。